抄録
【目的】 ストレッチは日常の臨床において頻繁に実施する理学療法手技であり、その方法も様々なものが考案されている。そして、持続伸張法と間歇伸張法は最も一般的な方法で、臨床的には関節可動域の維持・改善といった好影響を与えていると思われる。しかしながら、Ashmoreらは鶏の翼膜筋の持続伸張によって、Stauberらはラットヒラメ筋の間歇伸張によって筋線維損傷が惹起されたと報告しており、ストレッチは筋線維に対して悪影響をおよぼす可能性もある。そこで今回我々は、ギプス固定中のラットヒラメ筋に対して持続伸張法と間歇伸張法によるストレッチを行い、筋線維におよぼす影響を組織学的に検討した。【材料と方法】 8週齢のWistar系雄ラット20匹を、対照群(C群、n=5)と実験群(n=15)に振り分け、実験群の各ラットは、両側足関節を最大底屈位の状態で2週間ギプス固定した。そして、実験群を5匹ずつ1)固定のみの群(I群)、2)持続的伸張運動群(PS群)、3)間歇的伸張運動群(IS群)の3群に分け、PS群、IS群には週6回ギプスを外し、麻酔下で30分間、各々の運動を実施した。具体的には、PS群は非伸縮性のテープで両側足関節を最大背屈位に保持し、ヒラメ筋を持続的に伸張し、IS群は角速度10度/秒による足関節の底背屈運動によりヒラメ筋を間歇的に伸張した。2週間の実験期間終了後は、麻酔下でヒラメ筋を摘出し、筋湿重量を測定した。そして、筋は急速凍結の後に連続横断切片を作製し、H&E染色、ルーチンATPase染色を施した後に病理所見の観察とタイプI・II線維の筋線維直径を計測した。【結果】 筋湿重量を比較すると、実験群の3群すべて対照群に比べ有意に小さく、この3群間にも有意差は認められなかった。同様に、タイプI線維の平均筋線維直径も実験群の3群すべて対照群に比べ有意に小さく、この3群間には有意差は認められなかった。また、タイプII線維の平均筋線維直径は、実験群の3群すべて対照群に比べ有意に小さかったが、IS群のそれはI群、PS群より有意に大きかった。一方、病理所見の観察では、PS群、IS群ともに貪食細胞が浸潤した筋線維が散見され、間質の増加も認められた。そして、これらの所見はIS群で著しかった。【考察】 今回の結果から、ヒラメ筋の筋線維萎縮の進行抑制効果は、持続的伸張運動では認められなかったが、間歇的伸張運動ではタイプII線維のみに認められた。したがって、ギプス固定中の筋萎縮の予防には、持続的伸張運動より間歇的伸張運動が有効と思われる。しかし、間歇的伸張運動は持続的伸張運動よりも筋線維壊死の発生が著しいことから、筋線維損傷を惹起しやすい方法と推測される。そして、臨床においてストレッチを実施する際には、治療目的を明確にするとともに、骨格筋の病態を把握した上で運動方法を選択することが重要と考える。