抄録
【はじめに】近年地域保健の分野では、寝たきりや介護予防対策として、高齢者の転倒予防に対する取り組みが増えてきている。転倒の因子は種々あるが、中でも過去1年間での転倒経験や、日常生活でつまずきやすいことは大きな転倒要因である。そこで本研究では、6カ月間転倒予防アプローチを実施した在宅高齢者について、転倒やつまずきなどがあった群と無かった群に分け、運動機能変化の違いについて検討したので報告する。【対象と方法】対象はI町で行われた、6カ月間の転倒予防教室に参加した47名中、事業開始時と終了時ともに評価が実施できた38名(女性33名、男性5名)を有効データとした。平均年齢は、73.6±4.3歳であった。 問診を事業開始前後に行い、転倒経験とつまずきやふらつきの有無について調査した。運動機能は、開眼片足立ち時間、ファンクショナルリーチ(FR)、重心動揺軌跡長、座位ステッピング、全身反応時間、長座位体前屈、握力、垂直跳び、最大1歩幅、足踏みテストの10項目を評価した。足踏みテストは独自に考案したもので、大腿が床と水平になるまで挙上した足踏みを、10秒間にできるだけ速く行なうテストである。 事業は運動指導などの介入を6回行い、個人ではウォーキングや転倒予防体操を6カ月間実施させた。 統計処理は対応のあるt検定を用い、5%水準をもって有意とした。【結果】事業開始時に、転倒経験やつまずきなどがあったのは15名で、無かったのは23名であった。前者を有群(74.7±4.6歳)、後者を無群(73.0±4.1歳)とし、各々の運動機能変化を検討した。 有群では、足踏みテストと重心動揺軌跡長に改善が認められた(p<0.01)が、長座位体前屈は低下した(p<0.05)。無群では、開眼片足立ち時間(p<0.05)、足踏みテスト(p<0.001)、FR(p<0.001)が改善し、垂直跳びと最大1歩幅は改善傾向を示した。 事業終了時、無群の中で転倒やつまずきなどがあると答えたのは1名に対し、有群は9名であった。【考察】年齢について2群間で差は認めなかったが、6カ月間の転倒予防アプローチにより、改善した運動機能は無群の方が多かった。また、終了時の転倒やつまずきについても、無群が1名と少ない結果であった。このことは、両群の運動機能の反応性に相違があると考えられ、転倒予防対策を、1つの集団としてではなく、個別に転倒リスクを抽出し、それに対応した内容を実施する必要性があると考える。また、長座位体前屈のみが有群で低下したことは、体幹の柔軟性低下が転倒に関与することが示唆された。今後は、転倒の危険性を予測できる、有効的な評価項目の確立が必要と考える。