抄録
[目的]高齢者の平衡機能低下は転倒の原因となり、寝たきりを惹き起こす重大な問題である。本研究の目的は、静的立位バランス検査を用いて高齢者における平衡機能低下の傾向を調べ、その影響因子を検討することである。[対象および方法]対象者は、運動機能に影響を与える疾患・障害を有さない61歳から89歳までの健常高齢者247名、女性172名(平均年齢72.9±6.9歳)および男性75名(平均年齢74.2±6.3歳)であった。対照群として、若年健常者44名、女性29名(平均年齢21.7±1.4歳)、男性15名(平均年齢22.±6.3歳)を選んだ。静的立位バランス検査は、フォースプレート上で開眼および閉眼での静止立位を30秒間保持させ、足圧中心点(COP)移動距離を前後・側方別に計測した。データ分析は共分散分析および多重比較を用い,有意水準は5%未満とした。[結果]開眼でのCOP総移動距離は、男女差および年代間での有意差がみられた。閉眼でのCOP総移動距離は、男女差および70歳代・80歳代間で有意差がみられたが、60歳代・70歳代間では差がみられず、男女ともほぼ同じ値であった。開眼での前後COP移動距離は、男女間および年代間での有意差がみられた。閉眼前後COP移動距離は、男女間および70歳代・80歳代間で有意差がみられたが、60歳代・70歳代間では有意差はみられなかった。開眼および閉眼での側方COP移動距離も前後COP移動距離とほぼ同じ結果であったが、女性における開眼での側方COP移動距離は年代間の変化が少なかった。年代間と男女別の要因の交互作用は、すべての計測値において有意であり、閉眼での80歳代男性において、著明に増大していた。[考察]COP総移動距離、前後移動距離、側方移動距離の加齢変化を開眼時と閉眼時で比較すると、開眼では直線的に増大する傾向がみられたのに対して、閉眼では、80歳代に至って急激に増大していた。このことから、視覚依存性の姿勢制御は一定の割合で低下すると考えられる。一方、視覚情報を用いない姿勢制御すなわち、固有感覚依存性および前庭迷路機能依存性の姿勢制御は、80歳代に至って急激に低下すると考えられ、若年者との比較により、60歳代でも固有感覚系あるいは前庭迷路系の機能低下が推察される。また、そのような機能低下は男性の方が女性よりも著しいことが示唆された。