抄録
【はじめに】転倒予防には瞬時の運動応答が求められるが,これらを評価する簡便な項目は少ない。そこで,運動応答を測定する評価項目としての有効性を探ることを目的に,動的立位バランスの指標であるファンクショナルリーチテスト(FRT)に着目し,背伸び運動を行った後に生じる運動応答の変化について検討を行った。【対象と方法】S町が実施した転倒予防教室に参加した女性(A群)23名(平均年齢67.0±5.7歳)とした。コントロール群(C群)は健常成人10名(男性6名,女性4名,平均年齢22.8±0.8歳)とした。FRTはDuncanらの方法に準じて行った。まず,背伸び運動を行う前にFRT値を測定した。その後,背伸び運動を10回行い,その直後に再度FRT値を測定し,両者を比較した。さらに,測定時にビデオカメラにより撮影した映像から画像解析ソフト(NIH image)を用い,FRT最終肢位の股関節,膝関節,足関節角度を求め,背伸び運動前後で比較した。 一方,C群は3次元動作解析装置(アニマ社製ローカス3D)を用いて,FRT時の股関節,膝関節,足関節角度を計測した。サンプリング周波数は60Hzで測定した。筋電図測定は脊柱起立筋,腹直筋,大殿筋,大腿二頭筋長頭,大腿直筋,腓腹筋外側頭,前脛骨筋を対象として,サンプリング周波数は1kHzで測定した。ここで得られた波形を整流平滑化して,筋電図積分値(IEMG)を算出した。IEMGは最大等尺性収縮時のデータで正規化し,%IEMGを算出した。統計処理には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】FRT値はA群では背伸び運動後に73.9%が増加したが,17.5%は減少し,8.6%は変化がなかった。関節角度は,背伸び運動後に足関節背屈と股関節屈曲が増加した群と,足関節底屈と股関節屈曲が増加した群に分かれた。C群ではFRT値は全例増加し,関節角度変化はA群と同様に2群に分かれた。前者では背伸び運動後,大殿筋,大腿二頭筋に活動増加がみられた。後者では脊柱起立筋,前脛骨筋の活動が増加した。【考察】足関節と股関節の角度と筋活動の変化から,FRT時の姿勢制御は足関節戦略と股関節戦略を主に用いた2パターンがあると考える。背伸び運動前後で戦略の変更はなかった。背伸び運動は閉鎖運動連鎖であり,足関節のみでなく膝関節,股関節,骨盤,体幹への波及運動である。この背伸び運動後,A群で全てにFRT値が増加しなかったことから,加齢により固有受容器の感受性が低下し,運動応答が生じなかったことが示唆される。よって,転倒予防の指標として運動戦略のみならず,刺激に対する運動応答について検討する必要があると考える。