抄録
【はじめに】股関節疾患治療の最終目的は股関節機能の改善とそれに伴う歩行能力の回復である.特に慢性疾患では手術治療のみではその目的を十分に達することはできない.罹病期間が長い為にしばしば股関節周囲筋の機能低下を伴い,筋の量的・質的回復に向けた後療法が必要となる.しかし,適切な後療法を行うための運動中における質的筋機能の客観的評価方法は乏しい.この方法として,近年我々はwavelet変換を用いた表面筋電図(EMG)周波数解析で,歩行時の動的質的筋活動評価が可能となることを報告した.今回,三次元動作解析,EMG周波数解析,そして中殿筋筋組織の形態解析を同時に行い,筋の機能的側面から歩行時の跛行評価を行った.【対象および方法】対象は当院で外科的手術(THA,骨切り術)予定の股関節疾患患者5症例(平均年齢58歳)とした.まず,術前評価として術側中殿筋に電極,および踵部にフットスイッチセンサーを貼付しEMG歩行解析を行った.得られた信号はMyosystem1200を用いてコンピュータに取り込み,積分筋電図(IEMG)解析,wavelet変換を用いた時間周波数解析を行い,歩行時立脚期の平均周波数(MPF)を算出し,踵接地前後のMPF変化量(MPFR)を求めた.また,反射マーカーを両上前腸骨棘に貼付し,三次元動作解析装置Motus2000を用いて歩行時立脚期の骨盤傾斜角(踵接地後からの角度変化)をEMGと同期して測定した.コントロール群として健常者10症例(平均年齢53歳)のデータも同様に測定した.次にインフォームドコンセント後,承諾の得られた患者に対し,術中に中殿筋組織を採取した.得られた組織小片は急速凍結し,クリオスタットを用いて10-6m厚で連続横断切片を作製した.組織学的評価としては,ATP染色を用いて筋線維をtype1,type2線維に分類し,画像解析ソフトによりタイプ別の筋線維径を計測した. そして,歩行時の骨盤傾斜角に対するMPFR,筋組織形態との関連性について検討した.【結果および考察】症例1:Duchenneタイプの跛行で骨盤傾斜角は8度.EMGの時間的遅延は認めなかった(IEMGのピークが踵接地時とほぼ同時).MPFRは16Hz.type2線維径は38*10-6mであった.症例2:Trendelenburgタイプの跛行で骨盤傾斜角は1度.EMGの時間的遅延が認められた(IEMGのピークは踵接地時より遅延).MPFRは15Hz.type2線維の線維径は35*10-6mであった.健常者の骨盤傾斜角は約3度であり,股関節疾患患者はこれら至適角度から明らかに逸脱していた.しかし,骨盤傾斜角は,MPFR,type2線維径と統計学上,高い相関傾向は示さなかった.股関節疾患患者の跛行は,筋機能以外に関節変形,拘縮,疼痛,脚長差などが関与した複合障害であり,これらの因子を加味した多次元的解析が必要と考えられた.