抄録
【はじめに】
人工膝関節全置換術(TKA)は除痛、膝関節機能再建により日常生活動作の改善が期待できる。今回、両側同時TKA前後に重心動揺計上で立ち上がり動作を行い、圧中心の軌跡を測定し、術後短期間での変化について調べた。
【対象】
平成15年4月から10月までに当院で両側同時TKAを施行した患者20名、女性18名、男性2名、年齢73±5歳(平均±標準偏差)であった。疾患は変形性膝関節症15名、慢性関節リウマチ5名であった。対象は重篤な既往歴や合併症がなく研究に同意を得た者で、退院時、全例がT字杖歩行・階段昇降自立であった。また健康成人女性1名(年齢22歳)を比較対象とした。
【方法】
術前と退院時に膝関節可動域、膝伸展トルク、座位・立位ファンクショナルリーチテスト(FRT)、重心動揺計上での立ち上がり動作を測定した。膝伸展トルクは徒手筋力計(日本メディックス社製)を使用し、測定肢位は股膝屈曲90°の端座位とした。最大等尺性収縮を3回測定し、下腿長と体重で補正し、膝伸展トルク(Nm/kg)の平均値を算出した。
立ち上がり動作は重心動揺計(アニマ社製)を使用し、股膝屈曲90°でのいす座位を開始姿勢とし、測定開始2秒後の合図で上肢を使用せずに自然に立ち、動作終了後は静止するように指示し、計10秒間の測定を2回行った。計測は20Hzでサンプリングした。統計処理は術前後の各要素の比較はPaired t-testを行い、危険率5%未満の場合に統計学的有意ありとした。
【結果】
膝伸展可動域は術前-14.9±10.3°、術後-6.4±6.7°で有意に減少し(p<0.005)、屈曲可動域は術前117.1±14.8°、術後113.4±10.2°、膝伸展トルクは術前0.57±0.24Nm/kg、術後0.63±0.16Nm/kgであった。立位FRTは術前30.9±7.5cm、術後31.9±4.5cm、座位FRTは術前42.2±7.1cm、術後44.4±5.8cmであった。
立ち上がり動作の圧中心の軌跡において前後方向最大振幅は術前25.3±11.5cm、術後23.5±2.7cmと減少傾向であった。左右方向最大振幅は術前7.8±4.7cm、術後6.3±1.9cmで有意に減少した(p<0.01)。健康成人の前後方向最大振幅は22.8±0.1cm、左右方向最大振幅は2.4±0.02cmであった。
【考察】
退院時、膝屈曲可動域、膝伸展トルク、FRTは術前の値に回復または改善し、全例T字杖歩行・階段昇降が自立した。両側同時TKA術後、除痛と同時に、FTA・下肢アライメントの変化が生じ、患者は運動再学習を必要とする。そのため当院での術後理学療法は術創部の除痛とアライメント変化に対応した下肢筋のストレッチ、動作時の荷重均等と正中位の意識付けに重点をおいている。今回の結果より術後短期間で、両側同時TKA患者の立ち上がり動作における圧中心の軌跡は、健康成人に近づき、動作における質的改善も生じたと考える。