抄録
【はじめに】高齢者の転倒はしばしば屋内で起こっているが、その発生実態をみると、歩行のみならず立ち上がりや移乗動作の際の転倒が少なくないことが分かっている。そこで今回、重心動揺計を用いて立ち上がり時の足圧中心(Center of Pressure:COP)の変化を測定し、転倒経験の有無による姿勢制御能力の違いについて比較検討を行ったのでここに報告する。
【対象と方法】対象は当院外来通院中の独歩可能な患者で、過去に転倒経験を有する40名(平均年齢76.8±7.5歳、以下転倒群)、転倒経験のない48名(平均年齢73.6±8.1歳、以下非転倒群)とした。対象者は重心動揺計(G-620・アニマ社製)に裸足足底を置いた椅子坐位の状態から立ち上がる動作を3回行い、試行ごとのCOP変化を重心動揺計を用いて記録した。足底接地面となる重心動揺計からの椅子高さは40cmとし、歩隔や立ち上がり速さといった立ち上がり方法には制約を設けずに対象者が日常行っている方法に従った。また、重心動揺計への記録はサンプリング周波数200Hz、測定20秒間として行い、取り込んだデータからはコンピュータを介して軌跡長と、前後・左右の最大振幅値を算出した。なお結果は、第1相(臀部離床から立位まで)、第2相(立位から最初の5秒間)、第3相(第2相に続く立位5秒間)に分け、それぞれ解析を行った。統計処理にはMann-Whitney検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】転倒群、非転倒群ともに、第1相→第2相→第3相の順に単位軌跡長(単位時間あたりの軌跡長)が小さくなる傾向が見られた。単位軌跡長は第2相においてのみ、転倒群が非転倒群よりも有意に高くなる結果を得た(P<0.05)。前後方向の最大振幅値は、第2相と第3相において、転倒群が非転倒群よりも有意に高くなる結果を得た(P<0.05)。なお左右方向の最大振幅値は、いずれの相においても転倒群と非転倒群の間に有意差を認めなかった。
【考察】第2相では、単位軌跡長と前後方向の最大振幅値が転倒群で有意に高い値を示した。すなわち、立ち上がりという動的状態から、立位保持という静的状態に移行する第2相では、転倒群と非転倒群の姿勢制御能力の差が最も顕著に表れていたと考える。ADLでは、立ち上がりの第2相から歩行や移乗といった動作への切り替わりが頻回に起こっていると予想され、第2相での姿勢制御能力の低下は高齢者の転倒を招く1因子になっている可能性がある。こうした観点から、重心動揺計による立ち上がり時のCOP変化の測定は、転倒を予測する評価手段の1つとなりうるものと考えられた。