抄録
【目的】本研究の目的は,四つ這い位での四肢挙上運動が背筋の活動に与える負荷量を明らかにすることである.背筋筋力は年齢が増加するとともに低下するため,異なる2群の年齢層を対象として検討したので報告する.
【方法】対象は腰部疾患の既往歴のない若年女子6名,平均年齢24.5±1.5歳,また,自立歩行可能な高齢女子8名,平均年齢82.1±3.7歳である.すべての被験者には事前に説明を行い同意が得られた.腰部脊柱起立筋の活動の測定にはホルター筋電計ME3000Pを用いた.筋活動は第3腰椎レベルの左右の脊柱起立筋を対象とし,表面電極を用いてサンプリング周波数250Hzで導出した.測定動作はマット上の四つ這い肢位より,右上肢の挙上,右下肢の挙上,右上肢と左上肢の同時挙上,の3動作とし各動作を1回実施した.基準となる筋活動は体幹筋力測定器アイソフォースGT-350を用いて座位にて5秒間の最大筋力を発揮したときに得た.測定した筋電図は,各測定動作中の500msを全波整流後に面積積分として処理した.各動作において得られた積分筋電図は,最大筋力発揮時の筋活動を基準として標準化し筋活動割合とした.
【結果】最大筋力は若年女子が19.6±6.5kg・mで高齢女子が5.4±3.7 kg・mであった.計処理の結果には有意差がみられた.筋活動は若年女子の右上肢挙上時の右脊柱起立筋が11±2%,左の脊柱起立筋が7±2%,右下肢挙上時の右脊柱起立筋が20±12%,左の脊柱起立筋が10±5%,右上肢左下肢挙上時の右脊柱起立筋が27±13%,左の脊柱起立筋が23±14%であった.また,高齢女子の右上肢挙上時の右脊柱起立筋が20±11%,左の脊柱起立筋が33±19%,右下肢挙上時の右脊柱起立筋が67±33%,左の脊柱起立筋が52±16%,右上肢左下肢挙上時の右脊柱起立筋が60±35%,左の脊柱起立筋が81±33%であった.
【考察】背筋筋力は年齢の増加とともに低下する.本研究結果でも,高齢女子の背筋筋力は若年女子に比較して有意に低下していた.したがって,本研究に参加した高齢女子の脊柱起立筋の低下は加齢による影響と推測された.高齢者の筋力増強運動を行う場合の運動強度は,運動に伴う血圧上昇などのリスクを考慮すると,50%から70%程度の負荷量が妥当とされている.本研究結果は高齢女子の腰部背筋筋力増強運動に,四つ這い位での四肢挙上運動が有効な負荷量を与えることを示したものである.また,高齢女子において一側下肢および対側上肢の同時挙上運動では平均で約80%の筋活動が見られたことから,この運動が過剰な負荷を与える可能性も示した結果となった.今後,筋力増強運動には,個々の筋に対する筋活動割合の適切な評価に基づく運動強度を考慮した運動処方が必要と思われた.