抄録
【目的】当院では呼吸理学療法における運動療法導入時に呼吸機能のコンディショニングとして,動作時の呼吸パターンの指導を行っている.現在,呼吸器疾患患者に対する動作時の呼吸法は経験的に指導されている部分が多く,その効果や根拠を示した報告は少ない.これまで我々は,ペダリンング運動時における下肢運動と呼吸リズムの同調(Locomotor Respiratory Coupling:LRC)現象の存在に着目し,運動中におけるLRC現象の発生は換気効率に有利に働くなどの報告をしてきた.したがってLRC現象を意図的に誘発することは,運動中の呼吸循環系に有益な効果を及ぼすと考えられる.そこで本研究では,我々が三菱電機と共同開発した呼吸-運動リズム同調現象促通システムを利用し,定負荷運動時における自然呼吸と本システムを利用した呼吸法におけるLRC発生頻度及び呼吸循環応答の比較検討を行った.
【方法】対象は健常成人男性7名とした.運動は,三菱電機エンジニアリング社製Strength Ergo240BK-ERG003(以下,SE)を用い,自由な呼吸(以下free),2回転に1呼吸「吸気・呼気」(以下2:1),3回転に1呼吸「吸気・呼気・呼気」(以下3:1)の3種類の呼吸法によるSE駆動とした.各対象のAnaerobic Threshold(AT)に相当する負荷量を設定し,一定負荷にて6分間の駆動を行った.呼吸のタイミングの指示はSEに搭載した独自のソフトにより画面および音声で行った.尚,LRCの学習効果を排除する為,事前の練習は行わなかった.運動中のLRC発生状況は,下肢運動としてペダルの角度及びpeak torqueを,呼吸運動として呼気ガス分析装置からのflowとTidal Volume(TV)をアナログ出力し,波形解析ソフト(power lab)上で同期させ解析した.運動中は呼吸循環反応と呼吸困難感を測定した.LRC発生の統計学的判断は,Loringらの基準に従って判定した.各呼吸法の比較には一元配置分散分析を用い,統計学的有意水準を5%とした.
【結果及び考察】LRC発生頻度は,freeに対して2:1,3:1がそれぞれ有意に高い発生率を示し,我々が開発したシステムはLRC誘発に有効であった.呼吸循環応答では,酸素摂取量体重比(VO2/W)は3呼吸間に有意な差は認めなかったが,換気効率(VO2/VE)はfreeに対して2:1が有意に高値を示し,またfreeに対して3:1が高値を示す傾向がみられた.心拍数(HR)はfreeに対して2:1,3:1がそれぞれ有意に低値を示した.呼吸困難感に関しては,3群間に有意差は認めなかった.以上に加え,LRCの学習効果が報告されていることからも今後本システムは呼吸器疾患患者に対する新しい運動療法として応用できる可能性があると考えられた.