抄録
【はじめに】体幹屈曲運動時の腰部筋の急激な筋活動減少(Flexion Relaxation Phenomenon,以下FRP)に関する研究は多くされており,腰痛の筋電図学的分析に用いられている.また,頚部においても同様の現象が認められることが言われているが,それに関する詳細な報告は見当たらない.そこで我々は頚部痛等の評価に応用する目的で頚部筋に対するFRPについて検討したので報告する.
【対象】頚部に既往のない健常男性7名,平均身長169.3±cm,平均体重63.1±kg,平均年齢26.4±5.8歳を対象とした.
【方法】安静坐位姿勢より頚部屈曲し再び元の姿勢に戻る動作を行なわせ,その時の筋活動を記録した.表面筋電計はNoraxon社製MyoSystem1200とMioVideoを同期させ使用し,電極設置部位は頚部伸筋群(C4レベル)とした.分析は安静時,屈曲相(動作開始より屈曲動作終了まで),屈曲位保持相(屈曲動作終了より伸展動作開始前まで),伸展相(伸展動作開始より動作終了まで)に分け,それぞれ相を10の区間に分け平均振幅を算出した.FRPは屈曲相から屈曲位保持相に見られる筋活動の減少から安静時平均振幅以下となる点と定義し,その平均振幅と出現屈曲角度を検討した.頚部角度の計測にはReid's lineを用いた.Reid's lineは眼角部と外耳孔を結んだ線と水平線とのなす角で示した.また,屈曲相と伸展相の筋活動もあわせて検討した.
【結果】頚部筋のFRPは屈曲相に見られ,その角度は46.8±9.3°であった.これは頚部最大屈曲地点と比較すると運動開始より83.3±10.6%の地点で認められ,頚部が最大屈曲する以前に筋活動の減少が認められた.筋活動の平均振幅は安静時で10.84±2.5μV,FRP出現時で9.16±2.7μVであった.また,安静時に対するFRP時の振幅の割合は 87.4±25.6%であった.屈曲相の筋活動は最大振幅23.4±8.1μVで,伸展相の最大振幅は48.8±12.5μVと伸展相に高い筋活動を示し,その割合は221.6±75.7%であった.
【考察】頚部屈曲動作においても腰部と同様に屈曲相にFRPが出現した.この理由はある一定の角度からは腰部同様,脊柱後面の軟部組織の伸張により筋の支持が必要ないためと思われた.また,FRP前後の筋活動の比較においても屈曲相と比較して伸展相は約2倍の筋活動を示した.これらのことから頚部疾患においてもFRPを1つの筋電図学的分析に用いることが可能ではないかと思われた.