抄録
【はじめに】全身の柔軟性と各関節の複雑な動き、反復するジャンプ動作を必要とするクラシックバレエでは、下肢関節に非常に大きな負荷が加わる。障害・外傷は高い頻度で下肢に生じる。クラシックバレエは、膝関節軟骨損傷後の復帰が困難となるスポーツ競技の一つである。今回、両膝関節に広範囲重度軟骨損傷を生じ、その後幾度かの再受傷を繰り返しながらも4年間の経過を経てバレエ復帰を果すことができた症例の理学療法を経験したのでその経過について報告する。
【症例】30歳、女性。診断名両膝関節軟骨損傷(GradeIII、IV)。小学校3年生よりクラシックバレエをはじめた。
【現病歴】平成12年3月バレエ練習中に両膝に疼痛が出現、膝の屈伸が不可となり当院を受診した。
【初回手術】平成12年4月右膝外側円板状半月板損傷、大腿外顆・膝蓋大腿関節軟骨損傷(GradeIII、IV)に対して、半月板切除術、骨穿孔術を行った。7月左膝に同様の診断名を認め、同様の処置を行った。
【理学療法】術後3週間の免荷後、1/3部分荷重から開始し5週で全荷重とした。関節可動域拡大運動は軟骨損傷部位が顆部後方であったため、初期には伸展0度から屈曲45°までの制限をつけた。また膝の前後方向の安定性向上を意識した膝周囲および下腿、股関節周囲筋の筋力バランスを考慮したisometric中心の筋力強化を行った。
【経過】術後歩行可能となったものの9月頃より再び膝に違和感が生じた。関節鏡検査にて軟骨は大腿骨面で右8割程度、左ではほぼ10割の線維軟骨の再生が認められた。再度骨穿孔術を施行した。その後日常生活動作での疼痛や活動制限がなくなったが平成13年8月転倒し、左膝大腿骨外顆に新たに剥離を生じた(軟骨欠損1.5×1.0cm)。左膝骨穿孔術を施行した。平成14年5月、左膝の関節鏡検査で軟骨の再生が認められ(軟骨欠損0.7×0.7cm)バレエの基礎練習を開始した。しかし、9月になり再び左軟骨が剥離、膝骨穿孔術を施行した。以後理学療法に加え回旋予防のテーピング、栄養士による体重減少のための指導を追加した。結果、現在大きな軟骨剥離の兆候が見られずバレエを再開するに至った。
【考察】本症例は下肢に負担が大きいバレエへの復帰を強く望んでいた。症例に用いられた骨穿孔術は一般によく用いられる手技である。しかし骨穿孔術により再生される軟骨は線維軟骨でありその耐久性には限界があるとされる。その強度は本来の軟骨より劣るとされ、安全な荷重負荷の基準が明確ではない。理学療法では自覚的な疼痛や運動後、膝の浮腫程度の観察に頼らざるを得ないのが実際である。しかし現在は比較的経過は良好である。今後の経過観察が必要であるが、膝軟骨損傷後は根気強くきめ細かな理学療法を行うことで運動能力の回復が得られた症例を経験した。