抄録
【目的】歩行や走行、ジャンプ、投球動作等では、求心性収縮(CON)の直前に遠心性収縮(ECC)をすることで、弾性エネルギーを貯蓄・利用し純粋なCONよりもパワー出力を高め、運動効率を向上させている。この筋活動様式はSSC(Stretch-Shortening Cycle)と呼ばれている。これまでに下腿三頭筋のSSCの評価は行われてきたが膝関節周囲筋における評価はほとんど行われていない。そこで本研究では、筋力評価に広く使用されている等速度筋力測定器を用いて、スポーツ外傷による傷害の頻発部位である膝関節周囲筋のSSCの定量的評価を試みた。
【方法】対象は、右下肢が利き脚の健常成人15名(年齢24.8±4.4歳、身長164.8±9.5cm、体重57.9±7.8kg)とした。膝関節伸展および屈曲の最大筋トルクは等速度筋力測定器(MYOLET RZ450;川崎重工)を用いて測定した。筋収縮様式はCON、ECC、SSC(ECC直後のCON値)の3種類とし、角速度は60°/sec、120°/sec、240°/secの3種類、計9パターンで測定を行った。統計学的解析は、膝関節伸筋群および屈曲筋群それぞれにおいて、最大筋トルクを従属変数とするrepeated measure ANOVAを用いて検定し、多重比較にはTukey-Kramer法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】膝関節伸筋群の筋トルクでは、60°/secにおいてECCとSSC はCONよりも有意に大きく、120°/secおよび240°/secではECC、SSC、CONの順に有意に大きなトルクを示した。膝関節屈筋群の筋トルクでは、全ての角速度においてECC、SSC はCONよりも有意に大きなトルク値を示した。
角速度について比較すると、膝関節伸筋群の筋トルクで、CONおよびSSCにおいて60°/secは240°/secより有意に大きなトルクを示し、力-速度曲線の影響が認められた。ECCにおいては角速度による筋トルクの差異を認めなかった。膝関節屈筋群の筋トルクではCONでのみ、60°/secが240°/secより有意に大きなトルクを示した。
【考察】今回の等速度筋力測定器を用いた評価によって、膝関節周囲筋でもSSCをCONやECCから独立して評価することが可能であり、SSCによる筋活動の存在が確認された。特に速い角速度においてその結果は顕著であった。しかしSSCも少なからずCON同様、力-速度曲線の影響下にあることが示された。CONとECC、SSCの違いについては、筋の収縮要素と弾性要素の貢献度の違いに由来するという考え方がある。今後、弾性エネルギーの効率的な利用の観点から、SSCとパフォーマンスとの関係についても検討していきたい。