抄録
【目的】ラジオ体操は子供から大人まで広く受け入れられている運動の一つである。しかし、吸気と呼気の比率か1:1に近く、呼吸のリズムが速くなり易いため、高齢者や呼吸器疾患患者に対しては呼吸性の疲労を生じさせる可能性がある。石川(1998)はこの点を考慮し、腹式呼吸(吸気:呼気=1:2)を取り入れたラジオ体操(呼吸ラジオ体操)を考案し、呼吸器疾患に応用している。一方、心臓自律神経は肺の進展受容器からの求心性の影響を受け、吸気には交感神経活動、呼気には副交感神経活動が賦活されることが知られている。そこで本研究は、在宅で運動実施可能なラジオ体操を呼吸循環器疾患に広く応用することを目的として、呼吸ラジオ体操に注目し、心拍数(HR)、血圧、自覚的強度(RPE)および自律神経活動の変化を検討した。
【方法】男子大学生10名(平均年齢22歳)を対象とした。呼吸ラジオ体操はビデオを見ながら「1、2」で吸い「3、4、5、6」で吐くように指示し、ラジオ体操第1は呼吸に対する指示は特に行わなかった。運動のプロトコールは呼吸ラジオ体操は5分30秒間、ラジオ体操第1は3分10秒間とし、体操の前後で30分間の安静を設けた。対象者は両体操を24時間の間隔をおいて実施した。測定機器はホルター心電図および自動血圧計を用い、プロトコール全体においてHR、収縮期(SBP)と拡張期血圧(DBP)およびRPEを5分間隔で測定した。さらに,ホルター心電図より得られたR-R間隔データを10秒間隔でMem-Calc法にて周波数解析を行い、副交感神経活動の指標として高周波成分(HF)、交感神経活動の指標として低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)を算出した。なお、それぞれの測定項目については、体操15分前の1分間の平均値を安静時の代表値とし、この値を100%ととした変化率を求めた。また体操中の代表値はHR、HF、LF/HFは平均値、SBP、DBP、RPEは体操直後とした。統計的検討は分散分析を用い、有意水準を5%未満とした。
【結果】HRは、呼吸ラジオ体操とラジオ体操第1ともに安静時に比べて体操中は有意に増加し(P<0.01)、呼吸ラジオ体操は安静時と比較して体操10、15、25分後有意に減少したが(P<0.01)、両体操間では有意差なかった。HFは、呼吸ラジオ体操は安静時と比較して体操中ならびに体操後から20分後までの間で有意な増加を示したのに対して(P<0.01)、ラジオ体操第1は有意な変化を認めず、両体操間に有意差を認めた(P<0.05)。LF/HFは、呼吸ラジオ体操は安静時と比較して体操中は有意な変化がなかったのに対して、ラジオ体操第1は有意な増加を示し(P<0.05)、両体操間では有意差を認めた(P<0.05)。なお、SBP、DBP、RPEについては両体操ともに測定中の有意な変化を認めず、体操間の有意差も見られなかった。
【結論】副交感神経活動が減弱し、その反動で交感神経活動が刺激され心負荷の増大を招き易い心不全患者に対しても、呼吸ラジオ体操は適応できる可能性が示唆された。