抄録
【目的】介護老人保健施設や医療機関において寝たきり老人問題はほぼ解決しているが、それとは異なる座らせきり状態の高齢者が増加していることが課題となっている。突然の膝折れや転倒の危険性を回避するための安全優先が「座らせきり状態」の生活を強いる背景になっていることは否めない。しかし歩行不安定者の歩行支援器具である歩行器ここ30年間改善されていないのが現状である。今回、安全シートが設置された歩行器を用いた歩行練習の効果について検討したので報告する。
【方法】対象は膝折れや転倒の危険性が高い者や徘徊傾向があり車椅子による座位レベルの44名(49-93歳)で、対象の立位・歩行機能は平行棒内歩行レベルから近位監視レベルであり、基礎疾患は大腿骨頚部骨折、脳卒中後遺症、変形性関節症などであり大半が痴呆を合併していた。歩行器の使用に関する調査項目は、歩行の安定性や歩行距離の変化、業務上の使用感について理学療法士、介護スタッフ12名(平均勤務6.2年)から聞き取り調査を行なった。用いた歩行器の機構は、(1)膝折れと後方への転倒防止機構として背部サポートするバックレストと安全シートの設置(2)休憩にも活用できる安全シート(3)ガスばねによる立ち上がり補助機構を設置したものである。
【結果】平行棒内の介助歩行や近位監視で連続1-5往復以内のもが大半であったが、安全シートの歩行器使用で50-300mの連続歩行が可能となった。一方、スタッフの使用感では・転倒の心配が少なくなり心理的ストレスが解消される・近位監視から解放され、効率的な業務ができる、など安全性、効率性を強調していた。
【考察】高齢者の転倒による骨折は病院や介護老人保健施設などの施設以外の在宅生活者においてもでも無視できない重要課題となっている。しかし過剰な安全は、ややもすると歩行制限や車椅子坐位による座らせきり老人とした身体拘束にもなりかねない。今回の歩行器は突然の膝折れによる転倒を安全シートで支え、疲れたら座位が確保でき、しかもバックレストの設置により後方への転倒も予防できる点から不安定な歩行で徘徊傾向のある者にとって、転倒不安の心理的ストレスが軽減され、歩行に専念でき主体的行動が可能となることが挙げられる。安全な歩行器は高齢者、介護スタッフの転倒不安を取り除き心理的にも好影響を及ぼし、常時付き添ったマンツーマンの歩行から遠位監視の歩行となるだけに人手の少ない臨床現場にとって効率的な業務推進を支える歩行介助機器といえよう。