抄録
【目的】介護保険制度は要支援・要介護1の軽度の介護必要者の増加が著しく,2003年より高齢者筋力向上トレーニング事業が介護予防の包括メニューの中に加えられた.荒川区の高齢者人口は38000人であり,介護リスク保有者全員にマシン利用の筋力向上トレーニングを提供することは都市部では場所・費用・マンパワー等クリアすべき問題が多い.我々は荒川区高齢者保健福祉課と共同で,グループで実施可能をコンセプトに,虚から要介護高齢者向け筋力向上トレーニング(荒川せらばん体操)を開発した.体操をデイサービス利用者を対象に3ヶ月実施し,前後で体力測定をおこない,身体能力の効果について検討した.
【方法】体操は平成16年6月4日から9月3日までの3ヶ月間,週2回実施した.体操の参加者20名(男性4名,女性16名)の平均年齢は80.4±6.4(6から92)であった.全員が介護保険認定者で要支援・1名,要介護1・13名,要介護2・6名であった.全員なんらかの基礎疾患を複数有し,脳血管障害8名,変形性膝関節症などの下肢整形疾患11名,心筋梗塞・心肥大各1名,痴呆症10名(痴呆性老人自立度1から2b)であった.体操はウォーミングアップとクールダウンを含め1時間30分のプログラムである.荒川せらばん体操は,下肢各関節の筋力向上の要素とバランス,柔軟性要素を含み身体能力の向上を目的としている.2mのセラバンドを利用し対象者の下肢筋力の向上に合わせ黄から青4色を使用した.下肢の筋力向上の6種目のセット数は体力にあわせ漸次増加していった.本研究は所属大学倫理委員会の承認を受け,対象者およびその家族から説明と同意を得たうえで実施した.
【結果】10m歩行速度(47.9±19.0→61.9±24.9〔m/分〕),最大一歩幅(53.9±27.4→77.0±23.7〔%〕),Timed up and go(15.1±11.1→11.8±7.9〔秒〕),両脚膝伸展筋力(65.8±6.4→98.8±7.6〔Nm〕)に有意な改善がみられた.開眼片脚立位,Functional reach,Four Square Step Testの項目には3ヶ月効果は認められなかった.
【考察】大渕らによる高齢者筋力向上トレーニング事業報告と比較すると,本研究の参加者は約10歳高齢で,運動能力も10m歩行速度は約50%と低く,基礎疾患,痴呆症の有病率も高かったが,体操の有効性が認められた.開発した荒川せらばん体操プログラムはビデオを見ながら集団で実施可能であることから,都市部での介護予防事業に有望な方法と思われ,今後,実施施設を追加し効果判定を進めていきたい.