抄録
【目的】
変形性股関節症(以下,股OA)患者の術後の股関節周囲筋の筋力トレーニングの効果については報告されている.一方,股関節の変性は脊柱のアライメントと相互に関連していることから,体幹筋の機能評価が必要であると考えられる.しかし,股OA患者の体幹筋の機能に着目した報告は少なく,不明な点が多い.本研究の目的は,股OA患者の脊柱のアライメントと腰部の筋機能との関連性を明らかとすることである.
【対象】
対象は人工股関節置換術施行予定の股OAの女性16名(46~69歳)であり,さらに腰痛群(9名)と非腰痛群(7名)の2群に分けた.各対象者に本実験の趣旨と目的を詳細に説明し,研究参加への同意を得た.
【方法】
当院整形外科医の処方により撮影された立位での矢状面上全脊柱のX線画像を用い,腰椎前弯角(以下,LLA),腰仙角(以下,LSA)を計測した.また,矢状面での脊柱アライメントのバランスの指標として,Jacksonらの方法を用い,左右の臼蓋の中心点を結んだ中点(以下,HA)と第7頚椎椎体の中心点から下ろした垂線(以下,C7 plumb line)との距離を測定した(以下,C7 PL-HA).C7 plumb lineがHAの前方の時は(+),後方は(-)とした.また,立位における腰部脊柱起立筋(以下,LES)の筋活動を測定した.測定には筋電計(Biometric社製,Data LINK)を用い,筋活動を50msec毎の二乗平均平方根により平滑化し,サンプリングデータの平均値(以下,RFEMG)を求めた.最大等尺性収縮を100%として振幅を正規化し%RFEMGを算出した.統計にはピアソン相関係数と対応のないt検定を用い,危険率5%未満を有意とした.
【結果と考察】
立位時のLESの%RFEMGとC7 PL-HAとの相関係数はr=0.70で有意な相関を認めた(p<0.005).立位時のLESの%RFEMGと,LLAとLSAと相関係数はそれぞれr=0.39,r=0.50で有意な相関は認められなかった.立位時のLESの%RFEMGは腰痛群23.9±8.0,非腰痛群13.8±4.9で,腰痛群が有意に大きい値を示した(p<0.01).C7 PL-HAは,腰痛群-16.6±14.1mm,非腰痛群4.8±20.6mmで,腰痛群が有意にC7 plumb lineが股関節より前方に位置していた(p<0.05).また,LLAとLSAでは有意差はみられなかった.以上から,股OA患者のLESの活動量を評価するには,腰部・骨盤のアライメントに着目するだけでは不十分であり,脊柱全体からみた重心線と股関節の位置関係を考慮する必要性が明らかとなった.また,腰痛群は非腰痛群と比較してC7 plumb lineが股関節より前方に位置し,LESの活動量が増加していたことから,LESの活動量と腰痛との関連性が示唆された.