抄録
【目的】変形性股関節症(股OA)の代表的な異常歩行としてTrendelenburg跛行、Duchenne跛行が挙げられる。その要因として股関節外転筋(股外転筋)の筋力低下、股関節の構築学的な問題、疼痛の関与が報告されている。そこで全人工股関節置換術(THA)施行前後の股OA患者の歩行観察を行い、退院時の跛行残存群(残存群)と跛行改善群(改善群)に分類し、股外転筋力、疼痛、片脚立位バランスと跛行の関連について検討を行った。【方法】対象は、THA施行目的で入院した股OA患者17例(平均年齢57.9歳)であった。全ての被検者には本研究の趣旨を説明し同意が得られた。評価項目は股外転筋力、疼痛、片脚立位時間とした。股外転筋力の測定にはPower TrackII(NIHON MEDX)を用いた。股外転運動を各5回測定し、その最大値を読み取った。さらに、トルク換算のため大転子から膝関節裂隙までの距離を測定し股外転筋トルクを算出し、体重にて正規化した。片脚立位時間は、日本平衡神経学会の片脚立位検査に準じて測定した。疼痛はVisual Analog Scale(VAS)を用い、自己の疼痛度合いを測定し点数化した。跛行の判別は、6人のRPTがビデオにて歩行観察を行った。立脚時の立脚側への体幹や骨盤の傾斜、遊脚側への骨盤の墜下を跛行と定義した。跛行は、6人中4人以上のRPTの一致を判別基準とした。【結果】歩行観察の結果、残存群は13例、改善群は4例であった。体重あたりの股外転筋トルクは残存群で3.05 Nm/kg・3.45 Nm/kg(入院時・退院時)、改善群は3.55 Nm/kg・5.75 Nm/kgであり、残存群では退院時に改善群ほどの股外転筋力の増加がみられなかった。疼痛は残存群で5.3・1.2、改善群は2.5・0.1であり、両群とも退院時に疼痛の改善傾向が見られたが、入院時に疼痛の程度が高い者ほど跛行が残存する傾向にあった。片脚立位時間は、残存群で35.8秒・15.3秒、改善群は68.0秒・55.0秒であり、両群ともに退院時では片脚立位時間の短縮が認められたが、入院時に片脚立位時間の短い者ほど跛行が残存する傾向にあった。【考察】入退院時の歩行観察の結果から、THA施行後にも跛行が残存している症例が多く存在していることが明かとなった。今回の結果から跛行残存群の要因を考えると、術前に疼痛が高い者、片脚立位バランスの低下している者は術後の跛行が残存することが推測される。そのため、術前に疼痛と片脚立位バランスの改善を行うことが重要であると考えられる。また、術後に股外転筋力が増加しないことが跛行残存に関与していることから、術後は股外転筋力の増加に着目した運動療法を行うことが重要であると考えられる。今回の研究では、入院時と退院時での跛行と関連因子を検討したが、Andriacchiによれば人工関節置換術後の跛行の改善にはおよそ2年間の期間が必要であると報告していることから、今後は経時的な追跡により跛行と関連因子の詳細な検討を行いたい。