抄録
【はじめに】下肢骨折において長期の固定や免荷期間が必要な場合,全荷重や可動域運動開始時に違和感を訴える患者は多く,その訴えが歩行時に残存する症例は少なくない.今回,足関節脱臼骨折に対し認知理論に基づき主に足部への知覚(触覚,圧覚,運動覚,位置覚)情報入力での認知運動療法を導入しスムースに全荷重歩行へと移行できた症例を経験したので報告する.
【症例紹介】74歳女性,自転車走行中転倒し受傷.骨接合術施行後理学療法開始.術後2週抜糸後Scotch Castにて固定.術後4週Scotch Cast除去し脛腓関節の固定スクリューを抜釘後Air Cast装着し可動域訓練開始となる.術後5週より部分荷重,6週過ぎより全荷重歩行開始した.
【病態解釈及び治療仮説】本症例は,4週間足関節固定での完全免荷や腫脹などの影響により,足関節の関節覚や足底圧覚の情報が低下していることが推測された.また健側足関節の底背屈運動はイメージできたが,術側足関節ではイメージできなかったことから,足関節周囲筋の巧緻的な筋出力の調節機能の低下,大脳レベルでの制御機構変化が推測された.総体的に考えると歩行時の足関節の衝撃緩衝作用と地面把握機能の回復と足―膝関節の連動した運動が不十分あると考え訓練課題を構築した.
【訓練】1)完全免荷中は健側足関節の底背屈方向への運動イメージを実施し,そのイメージを術側に移行させ術側の運動イメージ再構築を目的とした.2)1cm程度の積み木を足底の踵部と前足部・母指球に敷き,足関節の関節覚と足底圧覚にて高さの識別を行わせた.3)足底に丸い棒を敷き前後に移動させた.2),3)の課題は部分荷重時より週に2回行い,すべての課題で内観(部位での知覚)を聴取した.健側でも同様の課題を実施し,知覚の差異を表現させた.その他,関節可動域訓練,筋力増強訓練,歩行訓練も併せて実施した.
【結果】 Scotch Cast除去後1週間程度での足関節可動域は背屈20°,底屈40°となり、部分荷重は25kgまで施行できた.その時,術側足関節のイメージは可能であり,その他の課題において健側との差異は殆ど認められなかった.全荷重開始後は足関節前部の違和感を訴える程度でその他の問題は認めず,一本杖歩行可能となった.数日後には独歩となり跛行は認められなかった.
【考察】足部・足趾機能には,歩行時の立脚期において関節覚,足底圧覚,足部アーチの緊張度など感覚情報が時間空間的に伝えられる.それらの情報に応じ筋出力は同時に行われ,複雑な知覚―運動連鎖が存在する.本症例のスムースな独歩への移行は,早期から認知課題を実施し,運動イメージ再構築が早期にできたこと,足部・足趾機能を正常化できたことが挙げられる.以上より,下肢骨折という障害を知覚システムの病態としてとらえアプローチする重要性を感じた.