抄録
【目的】遅発性筋痛(DOMS)は不慣れな運動や伸張性筋活動後の24-72時間後に著明となり,対象筋の伸張痛や収縮痛,圧痛が特徴とされている。そのため直接患部に理学療法を行うことが困難である。我々はこれまで,背部の脊髄神経後枝(後枝)支配筋に振動刺激を与え,遠隔部にある同じ脊髄分節の脊髄神経前枝(前枝)支配筋や関節に好影響を及ぼすことを報告してきた。そこで本研究では,下腿三頭筋の伸張性筋活動によりDOMSモデルを作成し,振動刺激を後枝支配の腰部筋に与え,前枝支配の下腿三頭筋のDOMSに及ぼす影響を経時的に調べた。
【方法】健常成人15名(男性7名,女性8名,平均年齢24.8±13.0歳)に対し,階段で片脚踵下げ運動(1セット3分間を3セット,各セット間に休憩1分間)を行わせて一側下腿三頭筋に伸張性収縮を課し,運動直後に振動刺激を与える群(振動群;n=10)と与えない群(対照群;n=5)とに分けた。振動刺激(周波数25Hz,振幅9mm;三協機械)は運動側の第4腰椎から第2仙椎レベルの多裂筋に20分間与えた。運動前,運動直後,20分後(振動群では刺激直後),1,2,3,7日後に以下の項目を運動側で測定した。痛みはvisual analog scale(VAS)を使用し,下腿の安静時,片脚踵上げ運動(短縮性収縮)時,片脚踵下げ運動(伸張性収縮)時に測定した。ROMは足関節背屈(膝屈曲位・伸展位)と底屈,膝関節伸展と屈曲を痛みのない範囲で測定した。圧痛閾値はF.P.METER(京都疼痛研究所)を用いて,腓腹筋内側頭と外側頭の各筋腹中央と筋腱移行部でそれぞれ3回ずつ測定し,平均値を測定値とした。なお,ROMと圧痛閾値については運動前からの変化量を算出した上で,全ての項目の経時的変化を一元配置分散分析とFisher’s PLSDを用いて多重比較した。
【結果】VASは運動後1-3日目に特に収縮時痛が増加し,2日後に最高値を示した。それと同期して圧痛閾値は低下し,ROMの制限がみられた。また,振動群の膝伸展ROMは測定期間中変化せず,運動後1-3日目に対照群より高値を示したが,それ以外の全ての項目で両群に有意な差は認められなかった。
【考察】今回の結果から,伸張性筋活動後1-3日目に収縮痛の増強,圧痛閾値とROMの減少が生じ,2日後にそれらはピークとなり,DOMSが確認できた。また今回,運動直後の急性炎症期に振動刺激を与えた結果,その後のDOMSと随伴症状に著明な変化は認められなかった。振動刺激は脊髄を含む反射抑制系を賦活することが示されているが,一方,急性炎症期の特に損傷直後には脊髄内の反射抑制系が抑制されるとの報告がある。これらのことから,今回のような炎症の超早期に刺激を加えた場合には,DOMSのような炎症初期の痛みや機能低下を改善するには至らない可能性が示唆された。