抄録
【目的】近年、腹直筋、外腹斜筋などのグローバル筋群へのアプローチに加え、ローカル筋群に注目したアプローチが注目されている。ローカル筋群に分類される腹横筋は、脊椎の安定化に重要な役割を果たすことが指摘されているが、そのトレーニング効果に関する報告は極めて少ない。本研究では独自に開発した運動制御障害評価システムを用いて、腹横筋のトレーニング効果を検討することを目的とした。
【方法】健常成人30名[男性:19名、女性:11名、平均年齢:22.0歳(19-31歳)、平均身長:168.0±7.7cm、平均体重:61.2±7.3kg]を対象とし、研究の主旨と方法に関して説明を十分に行ったあと承諾を得て実施した。腹横筋の選択的収縮および運動制御障害を熟知した者の指導監督のもと、超音波診断装置(東芝社製SSA-220A)と圧バイオフィードバック装置(Chattanooga group, inc, USA)を用いた視覚的バイオフィードバックトレーニングを1日に30分間、2週間実施した。「普通に呼吸しながら脊柱と骨盤を動かさないよう腹壁を引っ込め1分間保持して下さい」との要求に対して腹横筋を選択的に収縮することができる能力を評価した。評価はトレーニング開始前と2週間後の計2回とした。腹横筋の選択的収縮は、あらかじめ設定した基準;1)超音波画像上で外腹斜筋厚の増加を伴わずに腹横筋厚の増加を認めること、2)筋電図モニターより胸郭および骨盤領域における代償運動を認めないこと、3)呼吸モニターより腹横筋の選択的収縮時において安静呼吸の維持が可能であること、4)腹圧モニターより腹圧の減少を認めること、を満たすものとし、上記の基準に一つでも満たない場合は、腹横筋の選択的収縮が得られないものとした。
上記の
【結果】トレーニング開始前は、腹横筋の選択的収縮が得られているものが5名であったが、トレーニング開始後2週間では、15名が腹横筋の選択的収縮が可能となった。
【考察】健常者に対して1日30分、2週間のトレーニングにより約半数の被験者でグローバル筋群から独立した腹横筋の選択的収縮が可能となった。深部に位置し、骨運動に関与していない腹横筋の再教育トレーニングでは視覚的な手がかりが重要であり、短期間でより効率的なトレーニングを進めるには、より高頻度のトレーニングが望まれると考えられる。
【まとめ】1日30分、2週間のトレーニングにより50%の健常者において腹横筋の選択的収縮が可能となった。