抄録
【目的】Seki(2005)により腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)発症の原因のひとつと考えられる遺伝子が発見され、遺伝子レベルでの治療法の確立が期待されているが、腰部に加わる力学的なストレスがLDH発症の主要な原因であることは間違いないと思われ、そのストレスを減少させることは治療の方向性として正しいと思われる。Nachemson(1970)は膝伸展位での持ち上げ動作(以下back lifting)は膝屈曲位での持ち上げ動作(以下leg lifting)に比べて、椎間板内圧が高くなると報告し、leg liftingが腰痛予防のために推奨されている。第23回関東甲信越理学療法士学会において、LDH患者は健常者に比して、膝伸展角度が大きい傾向にあるため、back liftingになりやすい可能性があることを5症例で報告した。今回は症例数を増やし、検討したので報告する。
【方法】対象は腰椎椎間板ヘルニアと診断された男性12例(平均年齢47.0(28~72)歳、以下LDH群)と膝関節に障害のない健常男性12名(平均年齢32.0(18~55)歳、以下健常群)とした。LDH群において両下肢に症状が出現した症例は除外した。被験者には研究の主旨を説明し、了解を得た。測定肢位は被験者を背臥位とし、10cmの台に足部を乗せた肢位とした。1.6cmのマーカーを大転子、外側上果、腓骨頭、外果に貼付し、側方からデジタルカメラを用い撮影した。画像データはパーソナルコンピュータに取り込み、画像解析ソフトScion Imageを用いて膝伸展角度を測定した。膝伸展角度は大転子と外側上果、腓骨頭と外果を結んだ線のなす角度とした。LDH群の測定肢は非障害側とし、健常群の測定肢は右下肢とした。統計処理はt検定を用いた。
【結果】LDH群の膝伸展角度は4.3°±4.0°、健常群は2.6°±3.1°であった。LDH群の膝伸展角度は健常群より大きいものの、有意差は認められなかった。
【考察】臨床的にLDH患者は立位での作業時に膝関節を最終伸展位に保持する印象があり、また、歩行時のdouble knee actionが出現しない症例を多く経験する。特に再発例ではその傾向が強いように感じており、LDH発症と膝関節機能に関連性があるのではないかと考えている。本研究ではLDH群は健常群に比して、膝伸展角度が大きい傾向にあるため、back liftingになりやすいと仮説を立てたが、両群で有意差は得られなかった。膝伸展角度が大きいことはback liftingになりやすい要因の一つであるという可能性はあるかもしれないが、他の要因がより重要なのかもしれない。今後もLDH患者の動作時に膝関節が最終伸展位になりやすくなる要因ついて検討していきたい。