抄録
【緒言】アキレス腱断裂術後患者に対し,質的,量的評価を行い,AGILITY低下要因を検討した.
【対象】右側アキレス腱断裂術後5ヵ月,大学ラグビー選手.下腿最大周径は健側35.5cm,患側34.0cm,足関節関節可動域は両側底屈45°,背屈25°であった.
【方法】(1)AGILITY評価:片足ジャンプ前後(20cm),片足ボックスジャンプ(20cm台)10往復の秒数を計測した.(2)電気生理学的評価:被検筋は両側の腓腹筋内側頭(GM),腓腹筋外側頭(GL)とした.下腿後面皮膚の電気間抵抗を5kΩ以下にし,Perottoの基準を参考に表面電極を電極中心距離20mmにて貼付した(双極誘導).サンプリング周波数は2kHzとした.A.電気力学的応答…測定肢位を腹臥位,膝関節0°,足関節0°とし,足底母趾球部に圧センサーを貼付した.光刺激をトリガーとし,足関節最大底屈運動を行わせた.光刺激から圧センサー反応までの時間(TTF),光刺激から筋活動(EMG)開始までの時間(PMT),EMG発現から圧センサー反応までの時間(EMD)を計測した.また,同時に周波数解析を行い,平均周波数(MPF)を求めた.B.動作時筋活動量…動作速度2Hzにて両足ジャンプ(BJ),片足ジャンプ(SJ)中のEMGを測定した.尚,BJは左右均等に荷重して行うよう指示した.得られたEMGは20-500Hzのバンドパスフィルターをかけ,全波整流後に,積分(IEMG)し,SJをBJで除した%IEMG(SB比)を求めた.(3)筋力評価:μTas F-1(アニマ社製)を用いて,等尺性足関節最大底屈筋力を測定した.
【結果】(1)片足ジャンプ前後:健側8.83,患側9.87sec,片足ボックスジャンプ:健側8.17,患側9.19 sec.(2)TTF:健側294.3±27.5,患側323.6±16.1msec,PMT:GM;健側231.3±40.4,患側232.3±18.4msec,GL;健側236.6±36.4,患側257.6±16.9 msec,EMD:GM;健側63.0±13.5,患側91.3±4.7 msec,GL;健側57.6±9.5,患側66.0±4.0 msec.SB比:GM;健側102.4,患側146.0%,GL;健側107.7,患側145.2%.MPF:GM,GLそれぞれ健患差はなかった.(3)足関節底屈筋力:健患比68.9%.
【考察】筋の量的変化として,患側下腿周径減少,足関節底屈筋力低下が認められた.患側において,EMDの存在から直列弾性要素の変化が認められた.SB比は,健側では同程度であったが,患側では増加を認め,腱弾性エネルギーの利用効率低下が示唆された.AGILITY向上には,腱弾性要素に注目すべきである.