抄録
【目的】
ストレングスエルゴ240（三菱電機エンジニアリング社製）は、多機能を備えたエルゴメータである。我々は過去の学会・論文において、駆動時の下肢筋活動について報告してきた。今回、臨床応用に向けた基礎研究として体幹・股関節周囲筋群に着目し、駆動速度の違いによる筋活動を比較検討したので報告する。
【方法】
対象は、インフォームドコンセントが得られ、骨関節疾患等の既往の無い健常男性7名（年齢22～33歳）であった。駆動における右側の体幹・股関節周囲筋群筋活動と、股・膝関節の角度変位を、表面筋電図と電気角度計を使用し計測した。被検筋は脊柱起立筋（ES）、腹直筋（RA）、外腹斜筋（OEA）、股関節屈筋群（HF）、大殿筋（GM）、大腿直筋（RF）とした。駆動速度は30・50・70rpmとした。ペダル負荷は3Nm、バックレストは無しとした。一周期を膝関節屈曲相・伸展相に分け、筋活動パターンを比較した（1）。筋電図の解析は50回転分を整流加算平均し一周期分の積分値を求め、膝関節屈曲相・伸展相に分け、筋活動量を比較した（2）。
【結果】
（1）筋活動パターン：30rpmにおいてHFは屈曲相、RFは屈曲相中期～伸展相後期で活動したが、70rpmにおいてHFは伸展相後期～屈曲相後期、RFは屈曲相初期～伸展相中期と、速度が上がるにつれて筋活動のタイミングが早まる傾向であった。体幹筋群はいずれの速度においても一周期を通して持続的に活動し、GMには一定の傾向を認めなかった。
（2）筋活動量：屈曲相・伸展相に分け、30rpmの筋活動量を100％とし、50・70rpmと比較した。全体として30・50・70rpmの順で筋活動量が増加する傾向であった。以下、代表的な筋の百分率を【50・70rpm】の順で示す。OEA屈曲相【165・202％】伸展相【175・245％】、HF屈曲相【173・201％】伸展相【126・174％】、RF屈曲相【133・149％】伸展相【62・45％】であった。
【考察】
（1）筋活動パターン：速度上昇に伴い、HF、RFの筋活動のタイミングが早まる要因として、70rpmではリズムに遅れないよう積極的に駆動する必要があり、下肢の運動方向が変わる移行期をスムースにするためと考えられた。また、体幹筋群は下肢を円滑に駆動させるために、一周期を通して持続的に活動し、主に体幹固定として働いていると考えられた。
（2）筋活動量：70rpmの屈曲相では、積極的に重力に抗して下肢を屈曲させる必要があるため、HF、RFの活動量が増加したと考えられた。また、70rpmの伸展相では、バックレストが無いことによって、RFは主に股関節屈曲・骨盤前傾作用として体幹骨盤固定に働くため、膝関節伸展として作用しにくくなったと考えられた。一方、体幹筋群は速度上昇によりいずれも筋活動量が増加し、駆動速度が上がる程、さらに体幹の固定が必要であることが示唆された。
