抄録
【目的】筋力増強運動には様々な方法があるが、その一つに、1 Repetition Maximum(1RM)を元に運動負荷量と運動回数を決定する方法がある。我々は第41回日本理学療法学術大会において、1RMの90・80・70・60・50%の運動強度における最大運動回数を報告したが、60-90%が適当といわれている筋力増強運動において、設定%運動負荷量に対して実際に最大運動回数の実施が必要かどうかは明らかでない。そこで、本研究では1RMの70%の負荷量で反復可能な最大運動回数を測定し、最大運動回数の80%あるいは60%の運動回数でも筋力増強効果があるかを検討したので報告する。
【方法】実験の趣旨を説明し同意を得られた25名(男性10名・女性15名・平均27.5歳)の非利き手を対象に、ロジャーモバイルスピードプーリー(日本メディクス)を用いて、肘関節屈曲と伸展に対する筋力増強運動を実施した。測定項目は、上腕二頭筋(以下Bi)と上腕三頭筋(以下Tri)の1RM重量・BiとTriの1RM の70%での最大運動回数、上腕屈曲位最大周径・上腕伸展位最大周径・前腕周径とした。筋力増強運動は1RM の70%負荷量とし、反復回数によって被験者を無作為に3群に分類した。a群:最大運動回数(以下MAX群)、b群:最大運動回数の80%の回数(以下80%群)、c群:最大運動回数の60%の回数(以下60%群)。全群とも各回数を3セット実施し、セット間は3分休息した。運動頻度は3回/週、運動期間は4週間とし、それぞれ2週後・4週後にも測定を実施した。得られた測定結果から、SPSSを使用し、二元配置分散分析とその後の多重比較検定(scheffe法)を実施し、有意水準は5%未満とした。
【結果】初回測定では、年齢・身長・体重の他、全ての測定項目に有意差はなかった。各群内における初回―中間―最終測定間の比較で有意差があった項目として、Bi1RM重量[kg]に関して、MAX群では最終(6.9)が初回(6.2)より有意に大きく、80%群では初回(6.8)より中間(7.1)が、中間より最終(7.6)が有意に大きく、60%群では最終(6.1)が初回(5.3)と中間(5.6)より有意に大きくなった。Tri1RM重量では、MAX群のみ、最終(7.6)が初回(6.8)と中間(6.9)より有意に大きくなった。初回を100%として正規化し、中間期と最終期における各群間比較では、BiとTriの1RM重量に関して有意差はなかった。
【考察】初回測定時、全測定項目において3群は均質であった。1RMの70%負荷量での4週間の筋力増強では、Biでは必ずしも最大回数の反復は必要ないことが示唆されたが、Triにおいては最大回数での反復が必要である事が示唆された。これは、TriがtypeII線維であることが関係しており、回数の負荷が少なければ参加する筋線維数が増えず、筋力増強効果が少ないと考える。このようにBiとTriの2筋で異なる結果が得られたため、筋力増強を目的とした1RMの70%での運動回数は、筋・もしくは筋組成によって設定を変える必要があると考える。