抄録
【目的】頸髄症の歩行において、我々の先行研究において重症例は特に膝関節周囲ではdouble knee actionの消失、立脚期における過伸展の出現、膝伸展モーメントの低下などを示した。これらの阻害因子のひとつとして知覚異常が推測されるが、今回、Japan Orthopaedic Association score(以下、JOA score)を使用し、知覚機能と歩行時の膝伸展モーメントの関連性を検討した。
【方法】術前の頸髄症患者35例(64.9±11.2歳、157.2±9.8cm、60.7±11.1kg)を対象とした。性別の内訳は男性26例、女性9例であった。疾患の内訳は頸椎症性脊髄症20例、頸椎後縦靭帯骨化症9例、頸椎ヘルニア6例であった。対象者に下肢関節に著名な傷害および疾患は見られなかった。歩行解析には4枚の床反力計LG6-4(AMTI社)と6台の60Hzインターレス方式(NTSC準拠)カメラ(Motion Analysis社)を同期した3次元動作解析装置VICON370(Vicon Peaks社)を用いて測定した。標点は、両側の上前腸骨棘、大腿外側部、膝関節裂隙外側部、下腿外側部、第2中足骨頭、外果、C7及びL4の皮膚上とした。歩行は裸足、杖なしで個々の快適速度とした。解析はVicon Clinical Manager(Vicon Peaks社)にて行い、矢状面における運動学的因子を算出した。各5回の試行における両側下肢の結果を解析し、全体の平均値を求めた。相関分析は制動期/推進期のpeak値とJOA scoreを判定する。統計処理には、Spearmanの順位相関係数を用いた。
【結果】矢状面膝関節角度は、JOA scoreが低値となるに伴い、double knee actionが減少し過伸展を認めた。矢状面膝関節モーメントは、JOA scoreの減少と共に制動期および推進期の膝関節伸展モーメント値が低下し、GroupIIIでは、立脚期において膝関節伸展モーメントの上昇を認めなかった。JOA total scoreと制動期および推進期の膝伸展モーメントpeak値との間には正の相関関係が認められた(r=.51,r=.55: p<.05)。JOA scoreの知覚機能項目と制動期および推進期の膝伸展モーメントpeak値との間には正の相関関係が認められた(r=.62,r=.58: p<.05)。
【考察およびまとめ】頸髄症の症状が増すことにより、膝関節の位置覚が低下(Takayama H:2005)するとされている。固有感覚など異常のみでなく、末梢性であるの表在感覚の異常、中枢性であるしびれの症状も、歩行時における膝関節伸筋群に大きく影響を与え、重症例ではdouble knee actionの減少や過伸展を出現させるひとつの阻害因子として考えられる。