抄録
【目的】野球経験者では,利き手側において肩の外旋可動域が拡大し,内旋可動域が制限されるという現象(以下,外旋シフト)がよくみられる.その理由として後方組織の短縮,後捻角の増大等が考えられているが,未だ明確にはされていない.今回,外旋シフトがみられる者に対して外旋拡大および内旋制限の因子を調べたので報告する.
【方法】対象は野球経験者男性4名で,第2肢位で外旋シフトのある者とした.全員右利きで年齢は23.8±7.2歳であった.方法は,被験者の体幹を固定し,左右の肩の第1肢位外旋(以下,1外旋)・第2肢位外旋(以下,2外旋)・第2肢位内旋(以下,2内旋)の他動的可動域を測定した.各可動域で,肩甲骨を固定した場合(以下,true)も測定した.また2外旋では肩甲骨の角度を3方向から測定し,以前測定した非野球経験者のデータと比較した.さらに右小円筋に対して揉捏法を行い,再度2内旋を測定した.検定は対応のあるt検定を用い危険率を5%とした.
【結果】2外旋は右154.5°±11.6,左123.8°±8.4であり有意に右が大きかった.しかし,true2外旋は右102.5°±18.7,左103.5°±6.8で差はなかった.2内旋は右63.8°±10.8,左99.0°±16.6であり有意に右が小さかった.true2内旋も右36.5°±6.2,左61.8°±4.9であり,有意に右が小さかった.1外旋は右74.8°±9.8,左70.5°±11.8で差はなかった.true1外旋も右61.5°±10.8,左60.0°±7.1で差はなかった.2外旋の肩甲骨角度は,非野球経験者と今回では,それぞれ上方回旋角133°±9.3,128°±8.1,前方傾斜角-2°±8.1,-29°±9.3,内方回旋角22°±5.8,-1.8°±13.9であった.今回の特徴として肩甲骨が後傾し,外方回旋していた.右小円筋揉捏後は2内旋が104.5°±23.6,true2内旋が57.5°±8.5となり大幅な改善がみられた.
【考察】true1外旋には左右差がなく,後捻角の影響はなかったと判断できる.2外旋では左右差があったが,true2外旋には差がなかったことから2外旋の拡大は肩甲骨の動きによるものと考えられる.2外旋時の肩甲骨は非野球経験者より,平均値の差で27°後傾し,20°外方回旋している.外旋可動域の左右差は約30°なので,その差には肩甲骨の後傾が大きく寄与している.また肩甲上腕関節(以下,GHJ)の2外旋の制限因子は,大結節後端と臼蓋後縁との衝突であることが知られているが,今回は肩甲骨の外方回旋が大きいことから上腕骨がより肩甲骨面に近く,上記の衝突時期が遅れるためGHJでの外旋も大きくなったと考えられる.2内旋の制限は,true2内旋で左右差がみられたことからGHJの制限であると考えられる.小円筋のスパズムを落とすと2内旋は改善しGHJの障害であったことが確認された.よって外旋シフトの現象は,肩甲骨による外旋拡大とGHJの内旋制限という,因子の異なる現象が同時に起きたものである.