抄録
【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力を早期に予測することは,ゴール設定や治療計画の立案において非常に重要となる.先行研究では,その多くが退院時のFunctional Independence Measure歩行項目(以下,FIM歩行)を目的変数として帰結を検討している.しかし,定量的で実用性の高い歩行能力指標である歩行速度の帰結を検討した報告は少ない.これは,回復初期では歩行能力差が大きく介助を必要とする症例が多いため, 歩行速度帰結を説明できる時間距離因子を同一条件で評価することが難しいことが要因と考えられる.そこで,我々は定常速度設定が可能で手すりを併用できるトレッドミル(以下,TM)歩行を用い,回復初期の介助歩行における定量的な時間距離因子を算出し, 退院時の平地最大歩行速度との関連を検討した.
【対象】対象は当院入院2週後にTM歩行が監視となった初発脳卒中片麻痺患者19名で,FIM歩行が5点であった症例11名を監視群とし,4点であった症例8名を介助群とした. 監視群,介助群の順に,年齢は63.0±8.8歳,64.5±14.0歳であり,発症日から計測日までの期間は49.0±11.8日,47.9±19.2日であった.全対象者にはあらかじめ研究内容を説明し同意を得た.
【方法】当院入院後2週の時点で平地快適歩行速度とTM歩行を計測した.TM歩行は,キッセイコムテック社製の三次元動作解析システムKinema Tracerを用いサンプリング周波数60Hzにて20秒間TM歩行を計測し,TM歩行における歩行率(歩/分)と左右の歩幅(cm)および左右の立脚時間(秒)・遊脚時間(秒)・両脚支持時間(秒)の平均値と1歩行周期に占める各時間割合(%)の平均値を算出した. ベルトスピードは平地快適歩行速度とし,手すりの使用を認めた.これら当院入院2週後の平地快適歩行速度とTM歩行における時間距離因子を説明変数とし,退院時の平地最大歩行速度を目的変数として,その関連性を検討した.統計学的処理はスピアマンの順位相関を用い,有意水準0.01未満をもって有意とした.
【結果】当院入院2週後の平地快適歩行速度は監視群,介助群の順に1.46±0.47km/h,1.25±0.52km/hであり,退院時の平地最大歩行速度は2.54±1.26km/h,2.11±1.18km/hであった.監視群での検討では,当院入院2週後の平地快適歩行速度とTM歩行における健側の歩幅が退院時の平地最大歩行速度と有意な相関を示し,相関係数はそれぞれ0.88,0.84であった.介助群での検討では,当院入院2週後のTM歩行における健側の歩幅が退院時の平地最大歩行速度と有意な相関を示し,相関係数は0.93であった.
【考察】退院時の平地最大歩行速度と関連する回復初期の歩行の時間距離因子は,FIM歩行が5点である症例は平地の快適歩行速度とTM歩行における健側の歩幅であり,FIM歩行が4点である症例はTM歩行における健側の歩幅であることが示唆された.今後は症例数を増やし退院時の平地最大歩行速度を予測していきたい.