抄録
【目的】本研究の目的は、慢性期の脳卒中片麻痺患者に対して歩行時の足底接地感覚を音刺激でフィードバックすることの歩行訓練に対する有効性を、三次元動作解析装置VICON並びに床反力計を用いて検証することである。
【方法】対象は、デイケアに通所中の高次脳機能障害や認知症のない慢性期の脳卒中片麻痺患者男性3名とした。内訳は年齢64歳から74歳、身長163 cmから172cm、体重53 kgから67kg、罹病期間459日から2029日であり、全員が歩行時にT字杖とプラスチック製短下肢装具(SHB)を使用していた。
研究実施場所は新潟医療福祉大学とし、一人の被験者に対して合計6週間の歩行練習と計測を実施した。内訳は週1回30分前後のフィードバック歩行練習を4週間行い、その後持続効果をみるために2週間の歩行計測を加えた。足底接地感覚のフィードバックには、設定荷重に達するとブザーが鳴る装置PWB(partial weight bearing)トレーナー(OG技研製)を用いた。荷重量の設定は、症例A、C、30kg症例B、40kgとした。これを被験者の麻痺側下肢の装具の下に布製のテープにて固定して、音が鳴るように歩行した。本研究に関しては、新潟医療福祉大学倫理委員会と対象者が通院する病院の倫理委員会の承認を受けた。
【結果】各週の歩幅とストライド長の変化は症例Aにおいて増加し、左右の歩幅は6週後に同じ値にまで改善された。症例Bにおいても、左右の歩幅が等しくなる傾向が認められた。歩行速度の変化は、症例Aでフィードバック中の4週間において歩行速度の増加を示した。歩行中の麻痺側下肢荷重量と立脚期時間については、全症例に変化がみられなかった。歩行立脚期の前方への推進力では、症例AとCにおいて左右対称性が改善された。
【考察】今回の研究仮説は、足底接地感覚の音刺激によるフィードバックが麻痺側下肢への荷重を促し同時に立脚時間を延長することで、非麻痺側下肢の歩幅を改善するというものである。結果は当初の仮説と異なり、歩行速度を高めるために荷重量と立脚時間の延長は重要でなく、慢性期の脳卒中片麻痺患者において足底接地感覚の音刺激が歩行における引き込み現象を誘発したことによる歩行リズムの学習効果が、下肢機能の左右対称性を高め歩行能力の改善につながった可能性が示唆された。
【まとめ】歩行時の足底接地感覚を音刺激でフィードバックすることは、慢性期の脳卒中片麻痺患者に対して歩行リズムに影響を与え、歩行改善に有効であると考えられる。