抄録
【目的】膝前十字靭帯(ACL)再建後のスポーツ復帰に向けたリハビリテーションでは、片脚ジャンプ動作が評価や治療に用いられる。しかし、片脚ジャンプ動作は、再建靭帯への負荷が大きいため術後早期に行うことは危険を伴う。そこで、筆者らは片脚ジャンプ動作の前段階として、昇段動作を用いることで術後早期から下肢運動機能を評価できるのではないかと考え、本研究を立案した。また、昇段の高さとの関連もあわせて検討する。
【方法】対象は下肢に特別な既往のない健康な女性14名(年齢26.4±4.7歳)とした。昇段動作および片脚ジャンプ動作能力の指標として、加速度計(Myotest SA)を用い、最大パワー、最大筋出力、最大速度の3項目を測定した。昇段動作には10cm、20cm、30cmの高さの台を用い、無作為に選択し昇段させた。昇段動作および片脚ジャンプ動作は利き脚(ボールを蹴る脚)にて最大努力下でそれぞれ5回行い、最大値と最小値を除く3回の平均値を採用した。各高さの昇段動作および片脚ジャンプ動作における最大パワー、最大筋出力、最大速度の差の検討には一元配置分散分析を用いた。各高さにおける昇段動作と片脚ジャンプ動作の最大パワー、最大筋出力、最大速度の相関の有無の検定にはスピアマン順位相関係数を用いた。なお、本研究はH大学大学院保健学研究科の倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】昇段動作における最大パワーは10cm台、20cm台、30cm台でそれぞれ順に7.2±4.0W、8.5±4.4W、9.5±7.1Wとなり片脚ジャンプ動作で20.7±5.3Wでとなった。最大筋出力は同様に15.1±3.1N、15.1±2.9N、15.2±3.7N、片脚ジャンプ動作で21.7±4.0Nであった。最大速度は54.8±24.1cm/s、64.4±25.7cm/s、72.3±32.9cm/s、片脚ジャンプ動作で133.2±26.5cm/sであった。最大筋パワー、最大筋出力、最大速度は、すべての高さの昇段動作で片脚ジャンプ動作よりも小さかった(p<0.01)。30cm台の昇段動作と片脚ジャンプ動作の間で、最大筋パワー(r=0.59、p<0.05)および最大筋出力(r=0.77、p<0.01)に正の相関を認めた。その他の間には有意な相関は認められなかった。
【考察】昇段動作では、すべての高さにおいて、最大パワー、最大筋出力、最大速度が片脚ジャンプ動作より小さくなることが明らかとなった。昇段動作に必要な下肢の運動機能は、片脚ジャンプ動作に比べて低いため、片脚ジャンプ動作よりも負荷が小さく安全であると考える。また、最大筋パワーおよび最大筋出力で、30cm台の昇段動作と片脚ジャンプ動作の間に有意な正の相関が認められたことから、30cm台の昇段動作では、片脚ジャンプ動作に似た筋力発揮が要求されていることが示唆された。今後はACL再建術後の患者を対象にして、昇段動作と片脚ジャンプ動作における下肢運動機能の回復過程について明らかにしていきたい。