抄録
【目的】競泳ドルフィンキック動作はバラフライのみならず、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールの近代4泳法全てで用いられるキック方法である。経験的にドルフィンキック時に腰痛を訴える選手は多く、パフォーマンスに大きく影響する。Caillietら(1968)は腰椎と骨盤、股関節との運動学的な連動に何らかの問題が生じることで腰痛は引き起こされると述べており、腰痛の予防のためには腰部だけでなく骨盤、股関節を含めた運動学的分析が必要である。我々は先行研究において競泳選手の体幹屈曲運動での腰仙椎の運動は一般成人と比較して小さいことを確認した。しかし、水中運動での詳細な分析は行われておらず、障害予防のためのデータは十分ではない。そこで、本研究の目的は、競泳ドルフィンキック時の腰椎、腰仙椎、股関節の運動学的分析を行い、基礎データとすることとした。
【方法】対象は、測定時に腰部に異常の訴えのない健康な競泳選手男性15名とした。平均年齢(±SD)は20.0±1.2歳であった。水中にてドルフィンキック泳を行った。その際、対象には円錐状マーカーをC7、L1、L3、L5、S1の棘突起上、腸骨稜、大腿骨大転子上端部、大腿骨外側上顆に貼付し、側方よりデジタルビデオカメラにて撮影した。各マーカーより体幹角、股関節角、腰椎角、腰仙椎角を二次元上で算出した。それぞれの角度は体幹最大屈曲時と体幹最大伸展時、体幹角0度時で測定した。測定した値から体幹最大屈曲時と、体幹最大伸展時の体幹角、股関節角、腰椎角、腰仙椎角の変化量を求めた。股関節角、腰椎角、腰仙椎角の変化量についてどの部位が運動の変化が大きいか比較した。検定にはFischerの多重比較検定を用い、危険率5%未満を有意とした。なお、この研究はH大学大学院保健学研究科の倫理審査委員会の承認を得て行われた。
【結果】ドルフィンキック最大体幹屈曲時のそれぞれの角度の変化量の平均は体幹角23.0±9.2度、股関節角18.6±9.6度、腰椎角4.7±7.1度、腰仙椎角6.5±13.3度であった。ドルフィンキック最大体幹伸展時のそれぞれの角度の平均は体幹角27.1±7.5度、股関節角14.1±7.3度、腰椎角4.3±10.0度、腰仙椎角12.3±15.5度であった。体幹屈曲時には腰椎より股関節の運動が大きく、体幹伸展時には腰椎より股関節、腰仙椎の運動が大きかった(P<0.05)。
【考察】本研究より、ドルフィンキック時の腰椎、腰仙椎、股関節の角度の変動を提示することができた。伸展時には腰椎よりも腰仙椎の挙動が大きかったことから、腰仙椎部に強い刺激が加わっていることが考えられる。Kanaokaら(2007)は競泳選手の椎間板変性はL5-S1間でL4-5間の約2倍発生しており、腰仙椎間に大きなストレスが加わっている可能性を示唆しており、このことは本研究の結果と一致している。また、腰椎、腰仙椎、股関節の運動は相互の運動の比率が重要となっていると考えられるため、さらに今後検討を加える必要がある。