理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 158
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骨・関節系理学療法
下顎位が身体バランスに及ぼす影響について
前方リーチとの関係
山本 泰司
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抄録
【目的】歯科口腔外科領域においては下顎位および咬合と歩行や重心動揺との関係について多くの報告がある。また下顎自体が咀嚼のみならず、平衡器としての機能も有するという指摘もあるが、理学療法の分野では下顎を考慮に入れた身体バランスの報告や各種療法は見当たらない。今回、下顎位が身体バランスに影響を及ぼすのかどうかを確認するとともに、下顎が平衡器であることの可能性について考察する。
【方法】対象は、書面および口頭にて内容を説明し同意を得た顎関節に問題のない健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢40.8±11.4歳、平均身長166.7±9.8cm)下顎安静位と下顎を固定したときの身体バランス能力の差を前方リーチ動作により比較した。前方リーチにおけるバランス能力の測定には、測定中、転倒防止に専念でき、かつバランス能力を把握できる森尾ら(2007)が考案したModified Functional Reach Test (以下M-FRT)を用いた。下顎安静位で測定前に十分練習を施したのち、下顎安静位(以下RP)、咬頭嵌合位(以下ICP)、前方咬合位(以下POP)、後方咬合位(以下RCP)で各測定の間隔を30秒以上あけ、それぞれ2回実施し、最大値を採用した。下顎の固定は各咬合位において対象者自身が滅菌舌圧子を軽く噛むことにより行った。
【結果】統計学的手法は反復測定による一元配置の分散分析を用い、TukeyのHSD法にて多重比較を行った。M‐FRT値を身長で除して比率化したときの平均値はそれぞれ20.9±1.6、19.2±2.2、18.4±2.2、17.8±2.1、であった。各下顎固定位間には有意な差はなかったが、RPと各固定位との間では有意な差が認められた。(各水準間のP値:RP対ICP 0.0086;RP対POP 0.0002;RP対 RCP <.0001)
【考察】下顎固定により、リーチ距離が減少する傾向がみられた。前方リーチを制限する要因の存在が推測され、身体バランスに影響を及ぼしたことが示唆される。
頭部の重量は下顎骨を除くと、頭蓋頚椎支点で頭蓋前部の成分と後部の成分が歯突起前縁の前額面で均衡している。吉田(1991)は比較解剖学、顎関節のバイオメカニクスの観点から、この均衡状態で下顎は咀嚼だけでなく重垂として作用し、均衡がくずれると重力偏差を感知して頭部を鉛直線軸に復元しようとする機構を持つシステムであると述べ、「頭位軸慣性平衡器」と名づけている。今回のリーチ距離の減少は、下顎の固定によりこのシステムが作用せず、重力偏差の感知が遅れ、復元機構に不調が生じたものと考えられる。
【まとめ】下顎固定により前方リーチ距離が短縮し、身体バランスに影響することが示唆された。今後、側方、後方のバランステストを同じ条件で実施し、さらに確認していきたい。
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© 2008 日本理学療法士協会
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