理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 950
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骨・関節系理学療法
大腿骨近位部骨折後の体幹・股関節の機能的筋連結に着目した一症例
棚田 智子桂 大輔森 憲一千葉 一雄
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抄録
【はじめに】
日々の臨床において、関節可動域や筋力など身体機能面の評価だけでは動作パターンの改善に結びつかない症例を多く経験する。今回、大腿骨近位部骨折後に身体機能の低下と歩行伸展相の減少をきたした症例を担当した。歩行時の股関節機能に加え、体幹と股関節の機能的筋連結に着目して治療を展開し、動作パターンの改善が得られたので考察を加え報告する。
【症例】
79歳、女性。H19.8.13転倒により左大腿骨近位部骨折受傷。8.15人工骨頭置換術施行。受傷前は屋外杖歩行、屋内独歩。既往歴として受傷約2ヶ月前より中等度の認知症を有していた。
【治療経過および結果】
術後翌日より理学療法開始、全荷重許可にて2日目より荷重開始、6日目よりT-cane歩行、2週目より独歩でのプログラムを開始した。
術後1週目の左股関節伸展可動域は‐10°、徒手筋力検査(以下、MMT)は股関節伸展2、外転2、膝関節伸展3レベルであった。歩行時の最大股関節伸展可動域は‐10°で伸展相が欠如し、ケイデンスは1.19となっていた。
治療プログラムは歩行伸展相改善のために、股関節伸展可動域運動、体幹・股関節周囲筋の促通、患肢への荷重促通を施行した。
術後3週目の左股関節伸展可動域は5°、MMTは股関節伸展3、外転3、膝関節伸展4レベルとなった。ケイデンスは1.38と若干の変化がみられたが、歩行時の最大股関節伸展可動域は‐5°で伸展相に著明な改善が得られなかった。そこで治療プログラムを再考し、股関節・体幹の筋連結を意識した治療的誘導を坐位から立位・ステップへと段階的に実施した。
結果、術後5週目の左股関節伸展可動域は10°、MMTは股関節伸展4、外転4、膝関節伸展4レベル、歩行時の最大股関節伸展可動域は10°で伸展相が出現し、ケイデンスは1.84となった。
【考察】
正常歩行では、立脚初期に大殿筋が股関節屈曲モーメントの制動として働き、立脚中期から後期にかけて中殿筋・大腿筋膜張筋が側方安定性に働く。それらは対側の胸腰筋膜、脊柱起立筋と連結し、体幹の安定性を提供する。これらの筋の機能的連結を外側制動機構という。
本症例は筋力が改善してきても歩行時の殿筋群の収縮が得られなかった。そのため立脚初期において、殿筋群の活動が同側の大腿筋膜張筋、対側の脊柱起立筋へと波及せず、立脚初期における股関節屈曲モーメントの制動が得られなかったと考える。術後3週で外側制動機構を意識した治療を再考したところ、股関節屈曲モーメントは制動され、伸展相が出現し歩容の改善に繋がったと考える。
【まとめ】
今回、関節可動域や筋力などの身体機能の改善のみでは動作改善につなげる事は困難であった。外側制動機構を始めとした機能的な筋連結に着目し、治療的誘導により動作パターンを改善させる事が重要であると考える。
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© 2008 日本理学療法士協会
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