理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1442
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骨・関節系理学療法
大腿骨骨折により歩行困難を呈した症例に対する足底挿板療法の試み
既往に重度変形性股関節症がある症例
角田 信夫大平 功路山村 俊一
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抄録
【目的】既往に両側変形性股関節症を有し、右大腿骨骨折を受傷した症例を経験した。軟部組織伸張性低下に起因すると思われる関節可動域制限と跛行を呈し、その改善に難渋した。足底挿板を作製した結果、歩容の改善と共に可動域の改善が併せて認められた。足底挿板使用前後の歩容変化と関節可動域変化との関連性について考察する。
【症例紹介】77歳、女性,身長150cm体重52kg(BMI:23.1),受傷機転:椅子から立ち上がる際にバランスを崩し転倒,既往歴:先天性股関節脱臼後変形性股関節症(40年前、右側内反骨切り術施行、リハ非実施)
【経過】術後5日:PT開始し関節可動域、筋力増強訓練、荷重プログラムに即した歩行訓練を実施。10週:FWB,14週:関節可動域、歩容改善が滞り足底挿板作製し歩行訓練を重視した。
【理学療法評価:足底挿板作製時】ROM-t(右/左):股関節屈曲90°/100°,伸展-30°/-15°,内転15°/10°,外転-15°/5°,内旋-10°/5°,外旋10°/25°,10m歩行:26.3sec/32steps,連続歩行距離:40m,歩行分析:全体的には体幹前屈し、左重心の歩行である。右立脚前期に外側へ過度の重心移動が生じ、その対応として体幹右側屈、骨盤の内側移動が生じる。立脚中期より推進期にかけ右単脚支持期の相が短縮する。通常歩行では踵離れが生じて対側の立脚が始まるが、症例は右の踵離れが遅延するため踵離れの前に対側の立脚が始まる。踵離れの遅延は右足関節の過度の背屈をもたらし右膝関節は伸展が持続する。そのため、右推進期から遊脚期にかけて機能的な脚延長となり、左立脚中期に体幹の左側屈が起こる。また、左推進期では重心が右側に流れ、右立脚前期の外側への動揺を助長している。
【歩行の問題点及び改善点】歩行分析より右立脚前期の支持性低下及び支持性低下に起因した機能的脚長差による右下肢の振り出し困難が問題点であると考える。足底挿板により右立脚前期での外側動揺の減少と右推進期での踵離れの早期化を歩行改善の目的とした。その結果右立脚前期での体幹代償が減少、その後股関節伸展が拡大し右単脚支持期が延長した。その後膝関節屈曲位での振り出しが可能になり、右振り出し時に伴う左立脚中期の体幹代償が減少。左立脚後期の股関節伸展が拡大した。
【足底板作成4週間後】ROM-t(右/左):股関節屈曲90°/100°,伸展-20°/-5°内転30°/15°,外転-5°/5°,内旋15°/20°,外旋20°/35°,10m歩行:19.7sec/28steps,連続歩行距離:120m
【考察】足底挿板により右下肢の支持性が向上し、円滑な重心移動を可能とし下肢筋の収縮‐弛緩が繰り返されるようになった。その結果、筋の伸張性が向上し関節可動域拡大に至ったものと考えられる。つまり本症例の可動域制限は原疾患に加え、今回の右下肢支持性低下を起因とする跛行により助長されたものであった可能性が示唆された。
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© 2008 日本理学療法士協会
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