抄録
【目的】膝OA内側型にみられる後足部回内は膝関節内側にかかる荷重時痛を緩和するための生体防御反応と梁, 竹内らは述べている.膝関節内側への荷重時痛ならば大腿脛骨角(FTA)が増大すればするほど膝関節の内側にかかる負荷は増大し,疼痛増強因子になると推察される.しかし,臨床の場では,重度な膝内反にもかかわらず,疼痛が無い患者もみられ,逆に軽度な膝内反で疼痛が強い患者もみられる.そこで今回は,後足部とFTAの関係を明確にすることを目的とした.
【対象】平成17年10月15日から平成20年1月20日までの当院を受診し,医師より膝OA内側型と診断された男性48例,女性160例の合計208例304足(両膝OA96例,右膝OA44例,左膝OA68例)を対象とした.対象は平均年齢65.4±6.6歳,平均身長155.9±8.2cm,平均体重59.8±10.2kgであった.
【方法】後足部の踵骨二等分線角が回内0~5°のA群,回内6~10°のB群,回内11°以上のC群,回外0~5°のD群,回外6~10°のE群,回外11°以上のF群の6群に分けてFTAを計測し比較した.また後足部とFTAとの相関性をみた.
【結果】踵骨二等分線角にて回内0~5°のA群は25例28足,回内6~10°のB群は45例60足,回内11°以上のC群は23例33足,回外0~5°のD群は42例54足,回外6~10°のE群は66例88足,回外11°以上のF群は28例41足であった.平均FTAはA群179.7±2.3°,B群180±2.3°,C群181.5+3.6°,D群179.9±3.3°,E群181.2±3.9°,F群182±5°であった. 後足部回内外(A~F群)とFTAでは有意差はみられず,Spearmanの順位相関係数にて後足部回内(A~C群)とFTAはrs=0.2194,後足部回外(D~F群)とFTAはrs=0.1663で相関がみられなかった.
【考察】膝OA内側型の下肢アライメントと後足部について, 梁らは膝伸展制限5°以内にてFTA172~184°にて有意差が得られ,185°以上になると有意差が得られなかったと報告している.また内田らも平均FTA183.3±4.9°と踵骨外反とでは正の相関が得られたと述べている.竹内らも平均FTA184.5°(172~200°)にて正面脛踵角と相関係数0.641と正の相関が得られている.しかし我々の結果では有意差が得られず,相関も得られなかった.その要因の1つとしては今回の対象が膝関節の伸展制限が無く,FTA平均180.6±3.7°と比較的OAの内反が軽度であったためと思われる.FTA増大にしたがって膝内反モーメントも増加し,後足部に与える影響は強くなると考えたが後足部回内外にて有意差が得られなかった.我々はFTAが増大するに伴う後足部回内外ではなく,疼痛増大による後足部回内の代償動作やtoe outによる足部全体での回内代償動作が関係していると考えている.したがって足底挿板による後足部回内外のコントロール治療時はFTA増大による膝内反モーメントの増大だけをみるのではなく,荷重時痛や歩容などを含めた個別による慎重な対応が必要である.