抄録
【目的】変形性膝関節症(以下OA)は理学療法の対象疾患の中でも最も高頻度の疾患の一つにも関わらず,病因の本質的な解明には至っていない.一般的な内側型OA患者は,立脚期全般にわたって足関節は内反位にあり,立脚後期にわずかに外反位を示すと報告がある.通常,足関節を内反すると,運動連鎖により下腿外旋し,大腿外旋するので膝関節は内反位を示すといわれる.つまり,OA患者の歩行は,膝関節内反変形の症状の進行と悪化を助長することになると推測される.本研究では,健常者による足関節内反位歩行が,膝関節角度と関節モーメントに及ぼす影響を運動力学的解析から検討した.
【方法】対象は健常成人男性16名.年齢は21.7±0.8歳,身長は173.9±5.8 cm,体重は67.5±10.2kg(Mean±SD)であった.対象者には十分説明し,書面にて同意を得た.計測方法は研究に先立って足関節正中位歩行と内反位歩行が指示通り行えているか足圧分布計(Zebris社製)上を歩行してもらうことで確認した.その後,被験者に反射マーカーを13箇所貼付し,動作中の関節座標の計測に三次元動作解析システム(VICON MX3:Oxford社製)を用い,床反力計(Kistler社製,AMTI社製)を同期して右膝関節の外的内外反モーメント,内外旋角度,屈伸角度を算出した.なお,歩行条件を歩行率は100(steps/min)歩幅は0.60(m)に統一した.各ピーク値を対応のあるt検定を用いて比較分析した.有意水準は5%未満とした.
【結果】立脚初期~中期にかけての内外反モーメント第1ピーク値(立脚相約29%)で比較した結果,足関節内反位歩行の方が正中位歩行と比べ内反モーメントの増大を示した(p<0.01).立脚相を通して足関節内反位歩行の方が正中位歩行より内旋角度の増大を示し,第1ピーク値(立脚相約10%)で有意差を認めた(p<0.01).立脚相を通して,足関節内反位歩行の方が正中位歩行より膝関節屈曲制限を示し,第1ピーク値(立脚相約17%)で有意差を認めた(p<0.05).
【考察】膝関節内反モーメントの増大の理由として,足関節内反に伴い運動連鎖が生じて膝関節が内反位となり,膝関節の内側を通る床反力のベクトルと膝関節中心との距離がより長くなったためと考えた.また,足関節内反に伴う運動連鎖により下腿が外旋し,大腿に対して内旋角度が増大しているものと考えた.屈曲角度に制限を示したが,上述のように膝関節にねじれが生じていると考えられ,正常な終末強制回旋運動を阻害して骨や靭帯による制限が起こっていることが一つの要因と考えた.
【まとめ】足関節内反位歩行は膝関節の骨や靭帯などに異常な圧縮・回旋ストレスを及ぼすと考えられ,OAの症状の進行と悪化に関与する可能性を示唆している.