抄録
【目的】介護予防や生き生きとした生活を維持するためには,明確で具体的な目標設定は非常に重要であると言われている.今回,特定高齢者通所型介護予防事業(以下 介護予防事業)において,明確な目標設定を行えた対象者と明確な目標設定を行えなかった対象者の運動機能改善度の違いを調査し若干の知見を得たので以下に報告する.
【方法】対象は,介護予防事業参加に同意し,本研究にも同意した51名.平均年齢75.2±4.3歳.参加者の目標設定は,包括支援センター職員が聞き取り調査を行い,最終的に保健師が対象者の生活全般を勘案して決定した.目標設定が明確(以下 明確群)か不明確(以下 不明確群)かの判定は,臨床経験10年以上の理学・作業療法士5名で行い,5名全員の意見が一致した者を対象者とした.運動機能の評価は,初期評価と3ヶ月後の最終評価,それぞれ,握力・開眼片脚立ち・5m歩行(通常・最速)・Timed up &Go(以下TUG)(通常)・長座体前屈・ファンクショナルリーチを測定した.まず, 初期評価と最終評価とでの改善度検証の為,明確群と不明確群を分けずに,初期評価と最終評価とで対応のあるt検定で行った.次に, 初期評価で明確群と不明確群に差があるか否かを対応のないt検定で行った.更に,明確群と不明確群の初期評価と最終評価とでの改善度検証を対応のないt検定で行った.
【結果】目標設定の判定により,51名中40名(明確群12名,不明確群28名)が対象となった. 明確群と不明確群を分けない, 初期評価と最終評価との改善度は,ファンクショナルリーチを除きすべての測定項目で有意な改善を認めた(P<0.05).明確群と不明確群の初期評価での検証は,長座体前屈を除きすべての測定項目において両群に有意差は認められなかった.最終評価時の改善度においては,すべての測定項目において両群に有意差は認められなかった.
【考察】初期と最終評価時との改善度に関して,目標設定を考慮しない分析では,過去の報告通り,ほとんどの項目で有意に改善した.目標設定については,両群において有意差は認められなかった.すなわち,明確な目標設定であっても有意な運動機能改善は認められなかった.以上の事より,より効果的な介護予防事業への介入には,明確な目標設定を行うだけでは不十分であり,目標設定の意義や目的を再考する必要があると思われる. 又,個々の目標に向けたオーダーメイドプログラムの提供も不可欠であると思われる.
【まとめ】1.特定高齢者通所型介護予防事業への介入効果について報告した2.目標設定が運動機能に及ぼす影響について報告した3.明確な目標設定であっても,有意な運動機能の改善は認められなかった