抄録
【目的】大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折術後における術側片脚立位は、一側下肢の総体的な筋力およびバランス機能の指標となり、歩行における術側立脚相の確立には重要である。臨床上、立位姿勢から健側片脚立位をとるまでの時間に比べ、術側片脚立位をとるまでには時間がかかることを経験している。また、歩行能力を再獲得した術後患者の多くは、歩き始める際に術側下肢から振り出し、健側を支持脚とすることが多い。日常生活には支障がないため、個人差や生活習慣の違いと見逃してしまいがちなこのような問題について注目し、術側と健側の違いを明らかにすることを目的とする。
【方法】対象は、大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折の診断にて、手術を施行した65歳以上10名(以下、骨折群)と、整形疾患の既往がない同年代健常者10名(以下、健常群)の計20名とした。対象者の条件は、片脚立位が左右とも5秒以上可能なこと、屋内を一本杖もしくは独歩にて移動していることとした。また、日常会話が成り立つこと、検者の指示に従えることを確認し、認知機能が本研究に影響しないことを前提とした。方法は、重心動揺計測装置(MEDI CAPTEURS社製)を使用し、両脚立位から片脚立位までの時間、立位時の足底圧面積、最大圧、平均圧を測定した。測定はすべて裸足にて行い、立位は両脚を肩幅に開き、両上肢を体側下垂位とし、姿勢を意識させずに楽な状態とした。片脚立位までの時間は、検者の開始合図にて、立位姿勢から一側下肢を挙上し、片脚の足底が離れた時点までを、左右それぞれ1回の練習後に計測した。健常群においては、左右の平均をその値とした。また、骨折群では、術側と健側における荷重率、前脛骨筋と中殿筋の筋力測定を追加した。荷重率は、重心動揺計測装置にて計測された値とし、筋力は、ハンドヘルドダイナモメーター(OG技研株式会社製)にて測定した。前脛骨筋は端坐位にて、中殿筋は側臥位にて、術側と健側それぞれ2回ずつ測定し、平均値を個人の値とした。測定結果は、t-検定を用いて有意水準5%にて比較検討した。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言をもとに、目的と方法、個人情報守秘を口頭および紙面にて説明し、同意書の署名にて承諾を得た。
【結果】片脚立位までの時間は、骨折群術側と健側間、骨折群術側と健常群間に有意差を認め、骨折群術側で片脚立位までの時間は延長していた。骨折群健側と健常群間において有意差は認められなかった。立位時の足底圧面積は、骨折群術側と健常群間において、骨折群術側の方が有意に小さかった。立位時の足底最大圧および足底平均圧は、骨折群術側と健側間において、健側群の方が大きく足底最大圧では有意な差はみられなかったが、足底平均圧では有意な差を認めた。また、骨折群健側と健常群間において、足底最大圧、足底平均圧ともに骨折群健側の方が大きく有意差を認めた。骨折群の荷重率は、健側に比べ術側では有意に低い値を認めた。骨折群の前脛骨筋と中殿筋の筋力は、健側に比べ術側では有意に低い値を認めた。
【考察】骨折群健側における立位時の足底最大圧と足底平均圧は、術側だけでなく健常群と比べても高いことが明らかとなった。これらは、骨折群における健側の負担が、健常の一側下肢にかかるものよりも大きいことを示唆している。また、術側は健側に比べ、立位時の足底平均圧は低く、荷重率の低下を認め、片脚立位までの時間が延長している。これらは、健側優位で生活している中で、術側足底面の触圧刺激が少ないことが考えられる。歩行が再獲得でき、片脚立位を保持する能力があっても、前脛骨筋と中殿筋の筋力低下も残存し、左右のバランスは異なっていることが考えられる。したがって、臨床でみられる歩き始めの踏み出し方や動作速度の違いは、安楽時の立位において足底圧や荷重率、片脚立位までの時間の左右差が残存していることが原因であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折術後患者において、足底圧や荷重率、筋力の左右差が残存していることが本研究で明らかとなった。臨床において、歩行能力の再獲得や片脚立位の保持能力に目を向けがちであるが、片脚立位までの時間や足底圧、荷重率にも着目することでより自然な歩行を獲得できる可能性があり、それを解明することに意義があると思われた。