理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-161
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一般演題(ポスター)
骨付き膝蓋腱を用いた膝前十字靭帯再建術後の膝蓋骨高の変化
神原 雅典湖東 聡吉川 美佳松永 勇紀
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抄録
【目的】
膝前十字靭帯(以下,ACL)再建術後のリハビリテーションにおいては再建靭帯の保護を考慮しながら,機能回復を図る点で理学療法士の役割が重要である.そのため理学療法研究においても,再建術後プロトコールの検討や筋力強化方法及び回復経過,深部感覚回復経過などが多数調査されている.また,基礎研究では神経筋コントロール,再建靭帯のリモデリング,再建靭帯採取部の治癒過程などが研究されている.しかしながら,腱採取後の採取部に関与する関節のアライメント変化については,理学療法研究での検討は少ない.そこで今回,当院で骨付き膝蓋腱を用いたACL再建術(以下,再建術)を施行し,競技復帰した対象について,経時的な膝蓋骨の高さ変化を調査し,腱採取部のアライメント変化を検討することで若干の知見を得たので報告する.

【方法】
対象は,2007年7月から2009年9月までにACL損傷の診断を受け,当院にて再建術を施行した8例の内,競技復帰した6例(全例男性.新鮮例5例,陳旧例1例.)である.手術時年齢32.7±7.8歳,受傷から再建術までの期間153±100日であり,受傷機転はサッカー3名,柔道2名,剣道1名,損傷タイプは非接触型5名,接触型1名であった.調査項目は,再建術から退院後初回外来診察(以下,退院後診察)及び競技復帰までの平均期間,また対象の膝関節側面像のレントゲンフィルムを用いて,同一検者がレントゲンフィルムより膝蓋靭帯長(以下,T)と膝蓋骨長(以下,P)を計測し,Insall-Salvati法を用いてT/P比を算出し,その値を膝蓋骨高とした.検討項目は,再建術前と退院後診察時及び競技復帰時での膝蓋骨高の比較であり,後方視的に行った.統計学的分析は,Friedman検定を用いた後,Scheffe法にて多重比較検定を行った.

【説明と同意】
整形外科診察時に医師が同意を得て,診療放射線技師によって撮影されたレントゲンフィルムを用いた.なお,個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとする.

【結果】
再建術から退院後診察までの期間は36±10日間,再建術から競技復帰までの期間は324±46日であった.全対象において競技復帰時の膝蓋骨高は,再建術前よりも低下しており,その平均値は,再建術前1.04±0.15,退院後診察時0.98±0.15,競技復帰時0.95±0.12だった.競技復帰時の膝蓋骨高は再建術前よりも有意に低下していた(P<0.01)が,退院後診察時では有意な低下は認めなかった.

【考察】
今回用いたInsall-Salvati法は,T/P比を用いて膝蓋骨高を求め,それを膝蓋腱の長さとして定義する方法である.また,T/P比の基準値は0.8から1.2とされており,1.2を超える値であれば膝蓋骨高位,0.8未満であれば膝蓋骨低位とされ膝蓋骨位置異常の評価としても用いられている.今回の対象では,T/P比はどの時期においても基準値内であったことから,膝蓋腱の長さ異常及び膝蓋骨位置異常は生じていないといえる.しかし,基準値内での膝蓋骨高の低下は認めた.再建術後と比較し,退院後診察時に膝蓋骨高の有意な低下は認められず,膝蓋腱の採取が膝蓋腱の長さに影響を与えていないことが示唆される.しかし,競技復帰時には再建術前よりもT/P比は有意に低下していることから,採取部の治癒過程において膝蓋腱の短縮が起きていることが考えられる.先行研究では本研究と同様に,再建術施行後一年以上経過した症例に膝蓋腱の短縮がみられるとしているが,その中では二次性膝蓋大腿関節(以下,PF関節)障害の発生を伴う事が多いとされている.本研究ではアライメント変化は生じているが,問題なく競技復帰していることが明らかになっており,今後は腱採取部のアライメント変化と運動機能に関して検討を重ねることが重要だと考える.

【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術では健常な自家組織を採取することから,腱採取部に何らかのアライメント変化が生じると仮定して本研究を行った.ACL再建術前後でのアライメント変化について言及している研究は少なく,本研究は理学療法研究としての意義があると考える.
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© 2010 日本理学療法士協会
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