理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-151
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一般演題(ポスター)
自動背臥位一側下肢伸展挙上後下降動作時痛に対する恥骨結合部損傷の関与
磯田 真理森川 美紀中西 義治大津 顕司椙本 剛史山代 啓太西田 美紗子有川 功
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キーワード: 腰痛症, 恥骨結合部, 薄筋
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抄録
【目的】我々は腰痛症に仙腸関節とそれに関わる筋機能不全が関与していることを報告してきた.第21回・22回東海北陸理学療法学術大会では腰痛症例に自動背臥位両下肢伸展挙上後下降動作時痛(以下:両側下降時痛),自動背臥位一側下肢伸展挙上後下降動作時痛(以下:一側下降時痛)が見られることを報告した.両側下降時痛および一側下降時痛についても仙腸関節とそれに関わる筋機能不全が関与していた.日常診療の中で一側下降時痛を認め,恥骨結合部に圧痛を認める腰痛症例を経験している.今回, 一側下降時痛と恥骨結合部の関係について症例を提示し検討する.【方法】平成21年9月7日から同年10月26日の間に当院を受診した腰痛を主訴とした20~61歳の女性107名の内,一側下降時痛を呈した6名9脚(脊椎椎体,椎間板の損壊性疾患の疑いがない症例)を対象とした.1)一側下降動作の施行方法:患者は背臥位になり,一側下降動作を自動運動により行った.疼痛が発現する角度(ベッドと下肢のなす角度)を確認した.2)一側下降時痛の筋機能不全に対する評価と治療:腸骨に付着する腰殿部および下肢の筋を手掌圧迫テストにより改善する事を確認した後に伸縮性テープを貼付した.3)一側下降時痛の関節機能不全に対する評価と治療:筋機能不全の治療後,残存所見に対して腸骨操作を行い仙腸関節障害の治療を行った.4)恥骨結合部の圧痛確認:恥骨結合部を腹側から背側・頭側から尾側・尾側から頭側へ検者の手掌で圧迫し疼痛発現の有無を確認した.【説明と同意】対象は本研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】一側下降時痛を呈した症例6名9脚の内訳は以下の通りである.1)一側下降時痛の発現角度 60°:1脚,20°:6脚,0°:1脚.2)筋肉 薄筋のみで消失した症例:3脚,内転筋のみで消失した症例:1脚,大殿筋のみで消失した症例:1脚,大腿直筋と薄筋で消失した症例:1脚,一側下降時痛が残存した症例:3脚.3)関節 腸骨操作で消失した症例:3脚.4)恥骨結合部に圧痛を認めた症例:6名中4名.(症例供覧1)40歳代の女性.明確な受傷機転なく右腰痛が発現した.立位後屈20°で右腰痛が発現した.一側下降時痛は左右20°でAδ線維由来の腰痛が発現した.右一側下降時痛に対して右内転筋への伸縮性テーピングでは腰痛が残存した.次に右薄筋の走行に沿って鷲足まで伸縮性テーピングを延長した.すると右一側下降時痛が消失した.左一側下降時痛も同様に左薄筋への伸縮性テーピングで消失した.恥骨結合部の圧痛は左右ともに腹側から背側,頭側から尾側,尾側から頭側への圧迫で局所的に発現した.その中でも左右ともに頭側から尾側への圧迫で最も強い疼痛が発現した.2診目は立位後屈動作で制動はなかった.一側下降時痛は左右20°でAδ線維由来の腰痛が発現した.初診時と同様に左右薄筋への伸縮性テーピングで腰痛が消失した.恥骨結合部の圧痛は左右ともに腹側から背側,尾側から頭側への圧迫で局所的に発現した. (症例供覧2)30歳代の女性.明確な受傷機転なく腰仙部痛が発現した.立位前屈30°,後屈0°で腰仙部痛が発現した.左一側下降時痛は0°でAδ線維由来の腰仙部痛が発現した.両側下降時痛は50°でAδ線維由来の腰仙部痛が発現した.左一側下降時痛に対して左薄筋への伸縮性テーピングで腰仙部痛が消失した.恥骨結合部の圧痛は右尾側から頭側,左頭側から尾側への圧迫で局所的に発現した.【考察】自動背臥位一側下肢伸展挙上後下降動作(以下:一側下降動作)20~0°は股関節内・外転0°位・膝関節伸展位を保持した状態で股関節伸展,腸骨前傾運動を引き起こす動作である.薄筋は恥骨結合部から脛骨鷲足へ走行している.薄筋は股関節内転・膝関節屈曲・下腿内旋に作用している.一側下降動作では膝関節伸展位保持であるため薄筋は股関節と仙腸関節に作用する.薄筋の起始部は恥骨円板部から恥骨下枝にかけてである.薄筋は恥骨結合部の高さより脛骨鷲足が背側へ行くと股関節伸展とともに腸骨前傾に作用する.このように薄筋は一側下降動作で股関節内転・伸展・腸骨前傾に作用している.この薄筋の起始部には恥骨弓靭帯がある.薄筋の収縮や緊張により恥骨弓靭帯に侵害刺激が入力されAδ線維由来の疼痛が発現していたと考える.左右の腸骨は恥骨結合部によって結合している.恥骨結合部の動きは腸骨と連動している.恥骨結合部が損傷されるという事は仙腸関節が不安定な状態にあり,腸骨の動きによって仙腸関節周辺の軟部組織に侵害刺激が入力されやすい状態といえる.その侵害刺激が腰痛を引き起こすと考える.【理学療法学研究としての意義】腰痛症を見ていく中で脊椎椎体・椎間板・脊柱管腔の損壊性疾患を見逃してはならない.良性筋骨格系疾患の腰痛症の中には仙腸関節,腰椎椎間関関節由来のものだけではなく,恥骨結合部由来のものが存在する.今回,恥骨結合部由来の腰痛症例の中で薄筋の機能不全を呈する症例が7名中4名であった.
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© 2010 日本理学療法士協会
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