抄録
【目的】本邦の死亡原因は1位悪性腫瘍,2位心臓病,3位脳血管障害と,虚血性心疾患や脳卒中に代表される動脈の加齢変化に依存した疾患が死亡率の上位を占めている.その中で,脳血管障害急性期における死亡率は脳出血20%,脳梗塞10%と脳出血の方が脳梗塞より高く,脳出血と脳梗塞の重症度には差がみられる.脳血管障害患者は急性期の治療が終了した後、回復期リハビリテーションを行うことが多く,脳出血と脳梗塞では,疾患そのもの,あるいは有する背景因子の違いによってリハビリテーションによる回復に違いが出てくる可能性が考えられる.そこで今回は,脳出血と脳梗塞のFIM利得に違いがあるかを比較し,関連因子を検討したので報告する.
【方法】平成19年4月から平成20年2月まで当院へ入院した脳出血群30名(男性19名,女性11名),脳梗塞群32名(男性15名,女性17名)を対象にカルテより後方視的に調査を行った.調査項目は,年齢,BMI,入院時血圧,退院時血圧,回復期在院日数,急性期在院日数,FIM利得,Brunnstrom stageとした.統計学的検討にはspss15.OJ unpaired t-testを用い,P<0.05を統計学的有意差ありと判定した.
【説明と同意】口頭による研究内容の説明を行い,同意の得られた患者を対象に調査した.
【結果】脳出血群,脳梗塞群における各項目はそれぞれ次のようであった.年齢(歳):69.0 vs. 76.1 (P=0.03);BMI: 21.3 vs.22.8 (P=NS);入院時収縮期血圧(mm Hg): 127.7 vs. 134.6 (P=0.04) ;入院時拡張期血圧(mm Hg):73.2 vs.75.6 (P= NS);退院時収縮期血圧(mm Hg):124.0 vs.126.8 (P=NS) ;退院時拡張期血圧(mm Hg):72.9 vs.75.0 (P=NS);回復期平均在院日数(日):111 vs.107.8 (P=NS);急性期平均在院日数(日):44.1 vs.30.2 (P=0.02);入院時FIM:運動項目48.1 vs.50.8 (P=NS),認知項目24.0 vs.23.7 (P=NS),合計72.5 vs.74.5 (P=NS);退院時FIM:運動項目57.8 vs.67.9 (P=NS) ,認知項目24.2 vs.26.4 (P=NS),合計81.9 vs.94.3 (P=NS);FIM利得:運動項目9.7 vs.17.1 (P=NS),認知項目0.1 vs.2.8 (P=NS),合計9.7 vs.19.8 (P=0.03);Brunnstrom stage:脳出血群StageIII以下が6人,IV以上が24人,脳梗塞群III以下は9人,IV以上は23人であった.すなわち,年齢,入院時収縮期血圧,急性期平均入院日数,FIM利得合計点に有意差がみられた.
【考察】本研究において脳出血群は脳梗塞群と比べFIM利得合計点が低値であった.入院時FIMは脳出血群で高い傾向がみられたものの,退院時FIMでは逆転して脳梗塞群の方が高くなっていた.その要因として,急性期在院日数との関連が示唆された.すなわち,急性期平均在院日数は脳出血群の方が脳梗塞群より14日長く,脳出血群では急性期で病態の安定に時間を要し,積極的なリハビリ介入が遅れたため,FIM利得が低くなった可能性が示唆された.回復期平均在院日数に差はみられなかったことから,両群とも同時期にリハビリテーションのプラトーに達していることがうかがわれた.可能な限り早期のリハビリ介入がFIM利得の向上をもたらすと考えられる.脳出血群においては,FIM認知項目にほとんど改善が認められなかったが,これは脳出血群におけるFIM運動項目の改善度が低いことと関連していると思われる.高次脳機能障害の存在がリハビリテーションの抑制因子として作用し,FIM運動項目の改善が低下している可能性も考えられるが,本研究の結果からは両者にどのような関連があるかは明らかでなく,今後も検討を要する.入院時収縮期血圧は脳梗塞群で脳出血群より高値であったものの,退院時には両群に差がみられなくなっている.脳出血に対しては急性期より積極的な降圧治療が行われるため,入院時収縮期血圧に差が出たと考えられるが,回復期では脳梗塞に対しても十分な血圧管理が行われるため,結果として両群の収縮期血圧に差がなくなっていると考えられた.血圧とFIM利得との直接的な関連性については本研究の結果からは明らかではないが,両群の入院時および退院時血圧値からは,血圧上昇に伴うリハビリテーション中止といったリハビリテーション阻害要因はなかったと推定され,FIM利得は,回復期における管理上の問題というよりも,疾患そのものの特質あるいは急性期における入院管理の違いに原因があるものと考えられた.
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果からは,脳出血群においてリハビリテーション開始時期の遅延がFIM利得の低下に関連している可能性が示唆された.とくに脳出血患者に対する可及的速やかな本格的リハビリテーションの開始が望まれる.