抄録
【目的】障害児者にとって良い座位姿勢を得ることは、機能の維持や改善のために重要なことである.障害が重度なケース程、姿勢保持のために固定される.しかし、固定的な支持は利用者が本来持っている機能の顕在化を困難にし、強制的に整えたアライメントでは緊張を緩和することはできず、呼吸の悪化や嚥下の困難さを増加させる結果となる.そこで我々は適度な柔軟性と通気性を兼ね備えた三次元構造シート(以下3Dシート)に着目し、バギー型座位保持装置の開発を進め、平成18年10月にラッピーという商標にて市販化することができた.今回、その効果及び問題点を明らかにすることを目的に、使用状況や身体機能に及ぼす影響について研究・調査を実施した.
【方法】1)3Dシートの通気性・圧分散機能の検討:通気性については温湿度センサーTRH-7X(神栄)を使用し、両坐骨部、上部仙骨、下部仙骨の計4ヵ所にセンサーを貼付し20分間計測した.座圧の計測は体圧計測システムFSA(タカノ)を使用し5分間計側した.計測環境は室温25±1°C、湿度は45±5%であった.対象者はA.健常男性1名(年齢50歳・体重68kg・身長168cm)、B.脳幹部梗塞の男児1名(年齢10歳・体重51.5kg・身長167cm)、C.脳性麻痺の女児1名(年齢5歳・体重14.5kg・身長98cm)の計3名とした.対象者Aは5cmラテックスクッション、Bは空気入り多層構造クッション、Cはモールドシートに座り、3Dシートを使用した座位保持装置と比較した.
2)アンケート調査:3Dシートを使用した座位保持装置の使用状況・身体機能変化・使用感についてアンケートを作成し、8施設に郵送し調査を実施した.
【説明と同意】研究・調査に当たっては、ご本人あるいはご家族に十分に説明をし同意を得、当院の倫理委員会の承認を得てアンケート調査を実施した.また、写真の使用に関してもご本人あるいはご家族のご了解を得た.
【結果】1)3Dシートの通気性・圧分散機能の検討:湿度の経時的変化に関しては、すべての被験者において3Dシートを使用した座位保持装置でより良好な結果を示した.座面における圧分散に関しては、ラテックスクッションや多層構造クッションを使用した対象者A・Bにおいては明らかな違いはなかったが、モールドシートを使用した対象者Cでは3Dシートを使用した座位保持装置のほうが良好であった.
2)アンケート結果:座位保持装置として3Dシートを使用しているとの回答が得られたのは5施設、19ケースであった.ケースの平均年齢は13.7±4.5歳、頚定が不十分なケースが53%であり、うち約80%に側弯変形があった.座位保持装置としてラッピーを使用していたのは4名で、その他は別のフレームに3Dシートを取り付け使用していた.機能的な変化としては発汗の減少が74%にみられ悪化はなかった.筋緊張の改善は79%にみられ、呼吸や食事がしやすくなったと回答したケースが半数以上を占めた.構造については重量に関して37%が、折り畳みに関しては58%が不満と回答していた.具体的な意見としては、反り返っても頭部を自力で戻せるようになり、食事摂取能力が改善した.うつ熱による不快の訴えが減少した.身体に合い呼吸が楽になったなどの良好な意見があった.その一方で、3Dシートの肌へのあたりが強すぎ、擦り傷ができた.調整がうまくいかず、かえって呼吸がしづらくなった.頚部が適時調整できるようにしてほしいなどの意見があった.
【考察】3Dシートは通気性に優れ、クッションを使用した状態と同等の圧分散性が得られる可能性が示唆された.今回の調査より3Dシートを使用した座位保持装置は、より安楽で機能的な姿勢を提供できていることがわかった.フレームは姿勢調整のためL型パイプを取り付ける必要があり、大型化し重量が増してしまう.しかし、パイプ位置やベルトの張り調整により、利用者の機能変化に迅速に対応できるのは大きなメリットである.また、3Dシートを様々なフレームに使用することで、よりニーズに合った座位保持装置を提供することができていた.
【理学療法学研究としての意義】身体の各部位はそれぞれの特性を持ち、一様ではない.ことに、成長期には重力や筋の緊張・機能している筋群のバランスの影響をより大きく受ける.変形を予防し、機能を引き出していくためには継続的な取り組みが必要である.座位保持装置には機能獲得や改善のための治療機器としての役割が望まれる.今回報告した3DシートとL型パイプを使用した座位保持装置は有用と考える.