理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-003
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専門領域別口述発表
トレッドミル上での連続歩行時における足圧中心の加齢変化について
酒井 孝文河村 顕治山下 智徳
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抄録

【目的】超高齢社会を迎えた我が国において、健康寿命の増進は重要な課題である。人は加齢に伴う筋力低下、バランス能力の低下などにより歩行中の転倒事故が増大する。転倒と、それに伴う身体機能の低下、動作能力の低下が、高齢者の寝たきりを引き起こす要因となっている。転倒予防を行う上で、加齢に伴う歩行の変化の抽出は重要な研究課題といえる。これまで、一定時間以上の連続歩行を計測し、歩行中の連続した足圧や連続した足圧中心(以下、COPと略す)についての報告は乏しく、加齢変化による影響も明らかにされていない。
今回、足圧分布計測システムを有したトレッドミルを用いて、健常若年者と健常高齢者の歩行分析を行った。本研究の目的は、連続歩行におけるCOPの軌跡に着目し、加齢による特徴を明らかにすることである。

【方法】対象は健常若年者64名(男性32名、女性32名)、年齢19.4±0.6歳、健常高齢者32名(男性10名、女性22名)、年齢76.0±4.6歳である。
方法はビデオ画像と同期した足圧評価解析機能を有するトレッドミル(Zebris WinFDM-T、Zebris Medical GmbH)を用いて30秒間の歩行の計測を行った。被験者は事前に数分間の練習を行い、トレッドミル歩行に十分に慣れた後、安全に歩行可能な至適速度にて計測を行った。転倒事故を防止するため、トレッドミルの前方に手すりを設置し、後方と側方に介助者を配置した。
足圧データは両脚支持期を含めた踵接地から離床までのCOPを用いた。本システムではバタフライイメージでCOPの軌跡が出力される。COPの位置は長軸方向で表示し、最も前方移動した点を最大値、最も後方移動した点を最小値とし、その中央値の3点を算出し、足長によって正規化した。なお、重複歩距離は身長で正規化を行った。統計処理は群間比較でWelchの検定を行った。すべての検定において、有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】本研究は、吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規定、『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従う。吉備国際大学倫理審査委員会に申請し、審査を経て承認(吉備国際大学倫理審査委員会 受理番号:08-05)を得た。対象者に対し、臨床研究説明書と同意書にて研究の意義、目的、不利益および危険性、口頭による同意の撤回が可能であるということなどについて、口頭および書類で十分に説明し、自由意志による参加の同意を同意書に署名を得て実施した。

【結果】若年群のCOPは中央値48.7±3.7%、最大値69.1±4.2%、最小値22.9±3.9%であった。また、時間距離的因子は歩行速度64.2±10.3 m/min 、重複歩距離62.6±8.7 % 、歩調59.4±3.9 strides/minであった。
高齢群のCOPは中央値53.9±4.9%、最大値75.3±5.4%、最小値28.1±6.0%であった。時間距離的因子はそれぞれ26.0±11.9 m/min、33.3±12.3 %、55.0±10.0 strides/minであった。
群間比較において高齢群は、COPは中央値、最大値、最小値の全てに有意な増大(p<0.001)を示した。時間距離的因子では高齢群は歩行速度の低下(p<0.001)、重複歩距離の低下(p<0.001)、歩調の低下(p<0.05)を示した。

【考察】両群ともにCOPの中央値は足底の中央に近似した値を示した。しかし、高齢群は中央値、最大値、最小値の全てが前方への偏位していた。つまり、高齢群は若年群に比べ後足部を十分に活用していない状態と考えられた。そのため、若年群よりもさらに前方へCOPを偏位させることで前足部の活用を増大させる代償的な重心制御パターンを示していると考えられた。
立脚相には踵、足関節、前足部の3つのロッカー機能が存在する。しかし、高齢者は加齢による椎間板変性や骨密度の減少により椎体が変性し、代償的に膝関節と股関節の屈曲、足関節の背屈によって矢状面での姿勢変化が引き起こされている。そのため、立脚初期の足関節背屈筋の遠心性収縮が困難となり、踵ロッカーが機能していないと考えられた。これにより、足関節ロッカーと前足部ロッカーも機能不全を来しており、重心を利用した効率的な歩行が困難となっていると考えられた。
高齢者の歩行の特徴として小刻み歩行、すり足歩行、歩隔の拡大などがあげられる。つまり姿勢と歩容の変化により、踵ロッカーを機能させるために必要な踵接地が十分に行えておらず、前足部へ偏位した代償的なパターンでの重心制御によって歩行を遂行していると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】本システムにより、これまで困難であった多歩数計測、信頼性の高い解析が可能である。また、加齢による足圧の変化を明確にすることで、健康寿命の増進や疾患の特異的な足圧様式の考察を深める基盤となり、理学療法学研究としての意義は大きい。

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© 2011 日本理学療法士協会
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