理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-226
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ポスター発表(一般)
股関節屈曲筋の筋発揮能力は脊柱の安定性に関する効果の指標となるか?
脊柱の安定化トレーニングに伴う股関節屈曲筋力の変化
近藤 正太井手 裕一朗成田 甲子朗住井 良利樋上 恭平井関 亮甫
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抄録
【目的】腰部疾患を来した患者においては、筋スパズム、疼痛などにより脊柱の安定化筋は活動が抑制され、時間的経過とともに筋委縮による分節間の不安定性が生じる。このことは腰痛の発生を繰り返す主要な要因となることが考えられる。臨床においてはこの様な過可動性を伴う脊柱の不安定性に対し、脊柱安定化トレーニングを施行することが多い。しかし、その効果を客観的に評価する手段は、超音波による安定化筋の活動性やMRIによる筋肉の質量の測定が主体となっており臨床場面での効果判定としては実用的でないと思われる。我々は抗重力位での股関節屈筋群の筋出力が体幹、特に腰部の安定性に影響されることを腰部の疾患を有する患者において経験している。今回、股関節屈筋の筋発揮能力が脊柱の安定性を測るための指標となりうるか脊柱安定化トレーニング施行前後で比較検討したので報告する。【方法】現在腰痛の発生を認めず本研究の趣旨を理解し継続的にトレーニングが可能で、骨関節障害がなく検査に支障を来さない男性8名、平均年齢25.6±5.04歳、体重68.75±10.79 kg、平均身長170.3±4.03cm、とした脊柱安定化トレーニング施行に際し股関節屈筋群の直接的な筋力強化にならないことを条件とし、1)椅子座位にて腰椎を生理的前弯位に保ち腹横筋を収縮させた状態で1分間保持。2)同肢位を保ったまま足部で固定したセラバンドを腹部から胸部まで呼気に合わせての引き上げ動作を20回、2セット。3)同肢位を維持した状態で頭上に挙げた手で滑車を用い後方から前方へ呼気に合わせて引く動作を20回、2セットの3種類のトレーニングを設定し、2週間計12回施行した。そして、その効果を検証するため、検者を1名とし以下の測定をトレーニング継続前後で行い比較した。1)hand-held dynamometerによる股関節屈曲筋力測定。端座位で両手を胸の前で組み腰椎を生理的前弯位に保持させ、その姿勢が維持できる程度に股関節を最大屈曲させ大腿遠位に抵抗を加えた。その時この姿勢が維持出来ていることを条件として等尺性最大筋力を左右測定した。測定回数は2回とし最大値を測定値(単位N)として採用した。2)超音波画像診断装置(東芝フルデジタルXario)による腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の筋厚測定。腹横筋の筋厚が不明瞭で計測が困難であった1名を除く7名に対して、同肢位にて安静時と股関節自動屈曲時で測定した。測定方法は、同一時間帯の空腹時とし腋下中央からの垂線と臍の高さで交わる部分にプローブ(3.5MHz)の先端を当て短軸像を描写し、腹横筋腹側端の筋膜から各人任意の距離を設定し安静呼気最終域で測定することでトレーニング前後における測定方法に差が生じないよう各筋の筋厚を左右で測定した。統計学的検討は対応あるt検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。【説明と同意】被験者には,ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨を説明し,同意を得た。【結果】トレーニング前後における股関節屈曲筋力は右側で平均79.26±10.27Nから96.3±9.83N、左側80.76±13.7Nから98.07±9.33Nと左右側ともに安定化トレーニング後の筋力値は有意に向上した(P<0.01)。トレーニング前後における腹横筋の安静時の筋厚変化は左右を含めて平均3.37±1.14mmから3.81±1.56mmとほとんど変化は見られなかったが、股関節自動屈曲時における7名の筋厚測定では、右側平均5.41±1.31mmから6.41±1.38mm、左側では平均4.21±1.36mmから5.78±2.28mmとトレーニング後は筋厚が大きくなる傾向を示し、左右計14肢で見ると平均4.81±1.43mmから6.1±1.84mmとなり統計学的有意差を認める結果となった(P<0.05)。一方、内腹斜筋は左右計14肢で平均14.5±5.39mmから15.11±4.11mm、外腹斜筋においても平均8.14±2.47mmから7.97±2.64mmとトレーニング前後での筋厚の変化はほとんど認めなかった。【考察】脊柱安定化トレーニング後の端座位股関節屈曲筋力の向上は、トレーニングの内容、およびトレーニング期間を考慮すると股関節屈筋群そのものが強化されたとは考えにくい。むしろ、股関節屈曲時の腸腰筋による骨盤の前傾、腰椎の同側側屈で生ずる脊柱の不安定性が、腹横筋、多裂筋の活動性向上に伴い腰椎分節間で改善された結果、筋発揮能力が向上したと言えよう。この腹横筋の活動性向上については、端座位での股関節屈曲時における腹横筋筋厚の増加で説明できると考える。このことは、端座位での股関節屈曲筋力が脊椎安定化トレーニング効果を知るための1つの指標として有用であることを証明しているものと考える。【理学療法学研究としての意義】脊柱の安定化トレーニングによる効果を臨床場面で評価する一手法となる可能性がある。
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© 2011 日本理学療法士協会
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