理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF1-040
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
スクワット動作時における骨盤後傾がスクリューホームムーブメントに及ぼす影響
松岡 さおり田中 創矢野 雅直木藤 伸宏石井 慎一郎森澤 佳三西川 英夫副島 義久
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キーワード: スクワット, ACL, point cluster法
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抄録
【目的】
膝前十字靭帯(以下,ACL)再建術後の理学療法において,骨盤後傾位でのスクワット動作は内部膝関節伸展モーメントが大きくなり危険であると報告されている.しかし,実際の膝関節運動,特に前後移動や回旋にどのように影響を与えているかは明らかではない.そこで,本研究はPoint cluster法(以下,PC法)を用いて,スクワット動作時における骨盤後傾が脛骨前方移動と回旋運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的に行った.
【方法】
被験者は片側ACL再建術既往者7例(平均年齢19.7 ± 1歳)とし,ACL再建後2年以上経過し,計測時に関節水腫や血腫が認められない者とした.比較のため,下肢に既往をもたない健常者7名(平均年齢20.9 ± 0.9歳)を対照群とした.スクワット動作中の運動学データ計測のために,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON Motion Systems, Oxford)を用いて,サンプリング周波数120Hzで計測した.マーカーはPC法に準じ,直径14mmの赤外線反射マーカーを合計25個貼付した.得られた各標点の座標データを規定の方式に従ってテキスト変換した後,Andriacchiの開発したPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節の屈伸角度,回旋角度,ならびに大腿骨に対する脛骨の前後方向移動量を算出した.被験者は骨盤中間位と後傾位において,立位から膝関節屈曲90度そして立位までを行った.メトロノームを用いて1スクワット動作を5秒間で行った.骨盤中間位でのスクワット動作は被験者が通常行う方法とし,骨盤後傾位は意識的に後傾させた肢位で実施した.計測は5スクワット動作を3回行い,その中から任意に5回を抽出し解析した.
課題動作中の膝関節の屈伸角度,内外旋角度,大腿骨に対する脛骨の前後方向移動量を算出した.得られたデータは,群(健常群とACL再建群)と骨盤肢位(中間位と後傾位)の2要因の2元配置分散分析を用いて比較した.数値は平均 ± 標準偏差で表しp < 0.05をもって有意とした.
【説明と同意】
研究の実施に先立ち広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た.なお,すべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得た上で計測を行った.
【結果】
ACL再建群と健常群ともに骨盤後傾位でのスクワット動作は骨盤中間位でのスクワット動作と比較して有意に後傾していた.脛骨内外旋運動は,屈曲運動時に内旋運動し,伸展運動時に外旋運動が認められた.スクワット動作中の脛骨内外旋可動域は,健常群で約4~6°の運動に対してACL再建群では約10°の運動が起こった.また,ACL再建群は健常群と比較し,常に外旋位にあった.スクワット動作中の脛骨前後移動距離は,群間および骨盤肢位間に有意な差はなかった.スクワット動作中の脛骨回旋角度を横軸に,脛骨前後移動距離を縦軸に時系列にプロットした.健常群は骨盤中間位と後傾位で軌跡の形に大きな変化は認められなかった.しかし,ACL再建群は骨盤中間位と後傾位で軌跡の形自体の変化が認められた.
【考察】
スクワット動作中の脛骨前方移動距離は,群間および骨盤肢位間に有意な差はなかった.骨盤後傾位でのスクワット動作は,骨盤中間位よりも内部膝関節伸展モーメントが増加することで脛骨に前方剪断力を生じさせ,ACLに伸張ストレスが加わると推測されてきた.しかし,本研究結果は,スクワット動作中,ACLに過剰なストレスを与えていると推測されるほど,脛骨前方移動距離は認められなかった.その理由として,スクワット動作では膝関節は荷重によって軸圧による安定性が得られるため,脛骨前方移動が生じなかったと推測される.また,スクワット動作時の脛骨回旋角度および脛骨前後移動距離を2次元の状態空間の軌跡で観察すると,健常群は骨盤中間位と後傾位で軌跡の形に大きな変化は認められなかった.しかし,ACL再建群は骨盤中間位と後傾位で軌跡の形自体の変化が認められた.そのことはACL再建によって,膝関節の屈曲伸展の主運動と脛骨前後移動および内外旋の副運動との関係が崩れ,膝関節運動の秩序が障害されていることが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,骨盤後傾位でのスクワットは従来報告されているように,必ずしも再建ACLに伸張ストレスを生じさせているわけではないということが明らかとなった.また,ACL再建膝では膝関節の屈曲伸展の主運動と脛骨前後移動および内外旋の副運動との関係が崩れ,膝関節運動の秩序が障害されていることが示唆されたため,ACL再建術後の理学療法ではこれらを考慮した展開が必要である.
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© 2011 日本理学療法士協会
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