理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
上肢拳上運動における運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響
松村 葵, 建内 宏重, 永井 宏達, 中村 雅俊, 大塚 直輝, 市橋 則明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Aa0153

詳細
抄録
【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top