抄録
【はじめに、目的】 経頭蓋直流電気刺激は,頭蓋上に電極を貼付することで,極性に依存し脳活動を修飾することが可能である.近年,この直流電気刺激を脊髄に対して適応する手法(transcutaneous spinal cord direct current stimulation:tsDCS)によって,post activation depressionの低下(Winkler et al,2010),疼痛への耐性が増加する効果(Truini et al,2011)が報告されている.また体性感覚誘発電位の振幅の減少(Cogiamanian et al, 2008)が報告されており,tsDCSの効果は脊髄レベルだけでなく,大脳皮質レベルにも影響を与える可能性がある.今回,さらに詳細なメカニズムを解明するために,tsDCSが皮質脊髄路興奮性および脊髄反射経路に及ぼす影響を検討した.【方法】 実験は1)皮質脊髄路興奮性への影響,2)脊髄反射経路への影響を検討した.対象は健常男性10名(平均年齢26.1±3.5歳)であった.直流電気刺激はDC stimulator(Neuro Conn製)を用い,Winkler et al(2010)の方法に準じて,陽極電極(35cm2)を第12胸椎棘突起部,陰極電極(50cm2)を上腕三頭筋部に貼付し,刺激強度2mA,刺激時間15分で実施した.実験1)では,経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(Motor Evoked Potential :MEP)による評価を,介入前後および介入後10分,介入後30分に実施した.記録筋は前脛骨筋およびヒラメ筋とした.試験刺激は,安静時運動閾値(50μV以上のMEPが50%以上)を100%とし,強度を10%ずつ増加させ130%までの4条件にて行った.計測はそれぞれの強度で10回施行した.解析は,介入前後の皮質興奮性の変化を検討するため,介入前の各刺激強度の最大MEP振幅で,介入後の最大MEP振幅を除した値を算出した.実験2)では,脊髄反射経路への影響を検討するため,ヒラメ筋H反射を用いた条件・試験刺激法を用いた.条件刺激は総腓骨神経とし,前脛骨筋の運動閾値の強度で刺激した.試験刺激は脛骨神経とし,すべての評価時において,最大M波の10~20%のH反射が誘発される強度とした.条件試験刺激間隔(ISI)は,0,1,2,10,100msとし,刺激はランダムに各10回ずつ刺激を行った.ISIについて,2msをreciprocal inhibition,10msをpresynaptic inhibitionのD1,100msをpresynaptic inhibitionのD2とした.解析は,試験刺激で誘発されたH反射の最大振幅値とそれぞれのISIにおけるH反射最大振幅値の減少の割合とした.また最大H反射振幅値(Hmax)および最大M波振幅値(Mmax)を計測した.評価は,介入前後および介入後15分に実施した.統計解析は,それぞれの評価項目について介入前後の変化を比較するために,Tukeyの多重比較法およびShaffer法にてαエラーを補正しWilcoxon検定を用いて検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究内容を説明し同意を得た.【結果】 介入前後の前脛骨筋およびヒラメ筋のMEPにおいて,いずれの刺激条件でも有意差を認めなかった.Hmax/Mmaxにおいては,介入前0.38±0.13,介入後0.33±0.13,介入後15分0.34±0.14であった.統計解析の結果,介入前と介入後,介入前と介入後15分で有意差を認めた.ISI=10msにおいて,介入前0.76±0.11,介入後0.83±0.07,介入後15分0.83±0.09で,介入前と介入後,介入前と介入後15分で有意に抑制の減少を示した.ISI=2msおよび100msにおいては,介入前後で有意差は認められなかったが,100msでは抑制が減少する傾向であった.【考察】 本研究の結果から,tsDCSは脊髄のmotoneurons pool の興奮性を持続的に減少させるとともに,presynaptic inhibitionにおいても持続的に抑制を減少させることが示唆された.一方で,皮質脊髄路の興奮性や2シナプス性介在ニューロンであるreciprocal inhibition には影響を与えなかった.今回の結果から,中枢神経疾患にtsDCSを適応する場合において,motoneurons pool の興奮性を減少させることから,痙縮などの筋緊張異常に用いることができる可能性があると考えらえる.【理学療法学研究としての意義】 tsDCSが脊髄反射経路へおよぼす影響を検討し,理学療法における治療の一手段として適応できる可能性を示した.