理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
iPod touchを用いた脊柱・骨盤の運動学的評価
水野 公輔柴 喜崇池田 憲昭上出 直人鈴木 良和佐藤 春彦竹内 昭博平賀 よしみ福田 倫也
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p. Aa0883

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抄録
【目的】 高齢者では,骨粗鬆症に起因する脊椎椎体圧迫骨折や椎間板変性によって脊柱が変形し,不良姿勢となることが報告されている.特に胸腰椎後弯変形を呈すると,バランス能力や呼吸機能が低下し,死亡率も上昇することが示されている.また,地域在住高齢者の転倒には,歩行時の骨盤運動が影響すると報告され,歩行時の脊柱・骨盤のアライメントや運動の評価は重要であるといえる.しかし,立位や歩行時のアライメントや運動の評価には,位置計測装置のある研究室内での計測が必要であり,従来,多くの対象者に対して運動学的評価を行うことは困難であった.そこで我々は,小型・安価・簡便であるiPod touchを用いた測定系を開発し,その実用性を検証している.本研究では,地域在住高齢者を対象に,立位,歩行時の脊柱・骨盤のアライメントおよび運動の計測を行い,iPod touchによる脊柱・骨盤の運動学的評価の妥当性を検証することとした.【方法】 対象は地域在住女性高齢者44名(年齢71.1 ± 5.1歳,身長152.1 ± 5.2 cm,体重52.4 ± 7.1 kg)とした.調査項目は,年齢,身長,体重,過去1年間の転倒歴を聴取したのち,安静立位時,10m快適歩行時,10m最大努力歩行時の脊柱・骨盤のアライメントおよび運動を計測した.計測にはApple社のiPod touch(101g,58.9 × 111 × 7.2 mm)と自作のアプリケーション『GR2.3c』を用いた.この『GR2.3c』はiPod touchに内蔵されている加速度センサーと3軸ジャイロスコープを使って加速度や角度を計測し,取得したデータはテキスト形式のファイルとしてiTunes を用いてパーソナルコンピュータに取り込み,解析することが可能なアプリケーションである.脊柱に関しては,iPod touchを胸骨体に合わせ,X軸を脊柱の前後傾方向,Y軸を脊柱の左右傾方向,Z軸を回旋方向となるようにテープで固定した.骨盤に関しては,仙骨後面にiPod touchを合わせ,X軸を骨盤の左右傾方向,Y軸を骨盤の前後傾方向,Z軸を回旋方向となるようにベルトで固定した.なお,歩行時のアライメントは定常歩行中における各軸のピーク値を,脊柱・骨盤の運動は各軸の振幅値をそれぞれ解析対象とした.統計はアライメントおよび脊柱・骨盤の運動に関して,それぞれ年齢,快適歩行時間,最大努力歩行時間との関係をPearsonの積率相関係数を算出して検討した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,参加者には研究内容について口頭および書面にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】 安静立位時(r=-0.43,p<0.01),快適歩行時(r=-0.37,p<0.05),最大努力歩行時(r=-0.43,p<0.01)ともに年齢が高くなるほど,脊柱の前傾を認めた.また,骨盤の回旋が大きいほど,快適歩行時の歩幅の増大(r=-0.46,p<0.01)と時間の短縮(r=‐0.38,p<0.05),最大努力歩行時の歩幅の増大(r=-0.43,p<0.01)と時間の短縮(r=‐0.31,p<0.05)を認めた.【考察】 近年,iPod touchやiPhoneに内蔵されているセンサーを利用したアプリケーションが続々と登場している.我々は『GR2.3c』の開発,かつ理学療法分野への応用を試み,これまでにアライメントに関する瞬時のフィードバックや,データ解析が可能なアプリケーションとなっている.iPod touchは一般に普及しているデバイスであり,これまでの姿勢計測装置に比べて,小型かつ安価であることはいうまでもないが,『GR2.3c』を用いることで,簡便さに関しても非常に有用で,臨床への応用が可能といえる.これまでに再現性の検証を行い,本研究では,地域在住高齢者を対象に,iPod touchによる脊柱・骨盤の運動学的評価の妥当性を検証した.高齢者では加齢に伴い脊柱が前傾することや,骨盤の回旋角度が大きいほど,歩幅が大きく歩行時間も短縮することが,これまでに多くの研究室内での調査で示されてきた.本研究でも同様の結果を示し,加齢による変化や歩行時の運動学的変化を捉えることが可能であった.すなわち,地域在住高齢者を対象としたiPod touchを用いた脊柱・骨盤の運動学的評価は,妥当性を有し,今後,臨床への応用も期待できる測定系であるといえる.【理学療法学研究としての意義】 iPod touchを用いた測定系が,地域在住高齢者を対象とした調査において,妥当性を認めたことから,臨床への応用も期待できる測定手段になり得ることが提示できたと考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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