抄録
【はじめに、目的】 軟骨代謝において荷重をはじめとする力学的負荷は必要不可欠である.荷重が軟骨代謝に及ぼす影響については既に多くの報告がなされており,軟骨への力学的負荷は適切な負荷であれば軟骨代謝を亢進させるが,不足または過度であれば軟骨代謝は減少するとされている.また,荷重はサイトカインや成長因子を刺激し,滑液の循環を促すことで軟骨細胞の分化・増殖,基質の産生に影響を与えていると報告されていることから,軟骨修復にも重要な役割を果たしていると推測される.しかしながら,軟骨全層欠損モデルを用いて軟骨修復に対する荷重の影響を検討した研究は著者が検索した限りわずかしか見当たらない.以上から,本研究ではラット軟骨全層欠損モデルと後肢懸垂による非荷重環境を組み合わせることで荷重が軟骨修復に及ぼす影響を病理組織学的に検討した.【方法】 対象として9週齢のWistar系雄性ラット40匹を使用した.腹腔麻酔下にて左膝関節を最大屈曲位とし,剃毛後,膝関節前面を消毒した.皮切後,関節包を露出し,キルシュナー鋼線を用いて関節包上から深さ2.0mm,直径0.8mmの軟骨全層欠損を大腿骨内顆荷重部に作成した.穿孔後,穿孔部からの出血を確認し,皮膚を縫合した.実験動物は自由飼育を実施する荷重群と後肢懸垂を実施する非荷重群の2群に20匹ずつ分け,さらにそのそれぞれを10匹ずつ術後1週群,2週群に無作為に分類した.外科的処置後は,膝関節の固定と免荷や関節可動域練習は実施せず,ケージ内を自由に移動でき,水,餌を自由に摂取可能とした.飼育期間後,安楽死させ,左後肢を採取しホルマリンにて組織固定を行った.組織は脱灰した後,切り出しを行い,膝関節内側部断面標本を作製した.中和,パラフィン包埋後, 3μmに薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で穿孔部位を撮影し,画像をもとに修復組織及び軟骨の状態を観察した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行い(実験番号AP-112206),実験動物の飼育,実験および屠殺は金沢大学宝町地区動物実験指針に遵守して行った.【結果】 全対象において外科的処置後数時間で覚醒し,歩行を開始した.全実験期間を通じての死亡例はなく,肉眼的また病理組織学的にも感染はコントロールされており,実験終了時点で創は治癒状態であった.病理組織学的結果では,非荷重群の全対象において,大腿骨および脛骨の関節軟骨の菲薄化を認めたが,関節軟骨の表面への膜状構造物の侵入は認められなかった.軟骨損傷部位は両群とも術後1週,2週おいて,肉芽組織と無腐性壊死を伴う関節軟骨片によって修復されていたが,表面の不整は荷重群よりも非荷重群の方が軽度であった.【考察】 本研究の目的は,軟骨全層欠損モデルを使用して荷重が軟骨修復に及ぼす影響を明らかにすることであった.病理組織学的検討の結果において,非荷重群において関節軟骨の菲薄化が認められたことから後肢懸垂により関節軟骨に対する減負荷が生じていたと考えられた.軟骨損傷の修復においては両群ともに肉芽組織と無腐性壊死を伴う関節軟骨片によって修復されていたが,修復組織の表面の形状に差異が認められ,非荷重群においてより良好な修復が得られた.これは荷重群において修復組織が力学的負荷に対する十分な強度を得る前に,関節面に対して荷重が加えられたため,不整となってしまったと考えられた.このような現象はMosaicplastyに関連する研究においていくつか報告されており,同様の現象であると考えられた.これらのことから本研究にて得られた結果から,軟骨損傷後の早期荷重は修復組織に対する一定の危険性を伴う可能性が示唆された.今後は懸垂期間を延長することで,長期的な経過を検討するともに,免疫組織化学的検討など多面的に修復組織の検討を行っていく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 現在,関節運動や荷重などの力学的負荷が軟骨代謝に及ぼす影響はIn vivo, In vitro共に幅広く研究されているが,軟骨修復に対する力学的負荷の影響は十分に解明されているとは言い難い.この分野の研究が発展することで軟骨損傷後における荷重の開始時期や,早期荷重のメリット・デメリットが明らかになると考えられ,エビデンスに基づいた理学療法を展開できるようになると考えられる.