理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
脳血管障害片麻痺患者の動的バランス能力に関連する円滑さの分析
─下肢関節トルク変化の円滑さが身体重心制御に与える影響─
大田 瑞穂田邉 紗織渕 雅子
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p. Ab0448

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抄録
【はじめに、目的】 我々は第45日本理学療法学術大会にて、脳血管障害片麻痺患者の動的バランス能力を評価する指標として、身体重心の躍度を用いることが有用であると報告した。しかし、躍度の2乗和だけでは、動作時間や運動距離が異なる場合に比較が困難となる。そのため、本研究では躍度の2乗和に対して時間と距離の補正を行ったJerk Indexを用い、動的バランス能力との関係性を検証するために、立位での前方ステップ動作を計測した。さらに身体重心のJerk Indexに直接影響を及ぼすと予測される関節トルクの円滑さとの関連性も検証した。【方法】 対象は本研究の内容を理解し、同意を得ることができた脳血管障害片麻痺患者20名とした(平均身長159.0±10.2cm、平均体重56.3±11.2kg、平均年齢59.2±10.5歳、発症後経過日数平均:157.0±53.1日)。身体能力としては立位保持、前方ステップ動作の遂行が単独もしくは見守りで可能である者を対象とした。除外規定として課題遂行に弊害をもたらす関節可動域制限、高次脳機能障害を有する者とした。計測課題は麻痺側下肢を支持とし非麻痺側下肢を前方へ振り出す前方ステップ動作とし、開始肢位は被験者の足関節間距離を肩幅と同等にした自然立位でステップ長は被検者の任意とした。計測機器は三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)と床反力計(AMTI社製)を使用した。分析項目として、Jerk Indexは身体重心の進行方向加速度を一次微分した躍度を算出し、それを実効値とし後に算出区間で積分して運動時間と身体重心前方移動距離で補正した。関節トルク変化の円滑さ指標としては、支持脚となる麻痺側の股関節・膝関節・足関節の矢状面における関節トルク(屈伸・底背屈)を、一次微分した関節トルク変化率として算出し、それを実効値とした後に算出区間で積分した(以下:関節トルク最小)。算出区間は動作開始から左右下肢のステップ動作終了後の床反力鉛直成分が両脚同等に至るまでとした。バランス能力の指標としてはFugl-Meyer assessmentのバランス項目を使用した(以下、FMAバランス項目)。統計学的分析にはJerk IndexとFMAバランス項目との関係、Jerk Indexと各関節トルク最小の関係をSpearmanの順位相関係数にて検討し、各関節の関節トルク変化最小の比較を一元配置の分散分析後、多重比較を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理審査委員会による承諾に従って、インフォームドコンセントのとれた対象者のみを研究対象者とした。【結果】 Jerk IndexとFMAバランス項目との関係では負の相関を示した(r=-0.69)。Jerk Indexと各関節トルク変化最小との関係では、Jerk Indexと股関節トルク最小は正の相関を示したが(r=0.72)、膝関節トルク最小、足関節トルク最小との相関関係は得られなかった。各関節の関節トルク最小の比較では、股関節トルク最小が足関節トルク変化最小と比較して有意に小さな値を示し(p<0.05)、股関節トルク最小・膝関節トルク最小間、足関節トルク最小・膝関節トルク最小間では有意な差がみられなかった。【考察】 前方ステップ動作は、両脚支持から片脚支持、そして両脚支持へと支持基底面の変化がおこる動作であり、動的バランス能力が求められる動作である。その前方ステップ動作から得られた身体重心のJerk IndexはFMAのバランス項目と負の相関を示し、Jerk Indexが大きくなるほどに、バランス能力の低下を示す傾向にあるため、動的バランス能力の評価指標として有用であると考えられた。さらに各関節トルクの円滑性を検証した結果から、前方ステップ動作では足関節のような末梢の部位よりも中枢部の股関節トルクが円滑な変化を示す傾向があり、Jerk Indexの関係性から股関節トルク変化の円滑性が高い程、身体重心の円滑な制御が行えていることが確認出来た。以上の考察から、立位姿勢で支持基底面に変化がおこる動的バランス能力向上には股関節トルクを制御する能力の改善が必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 動的バランス能力に関連する身体重心制御の円滑さには股関節モーメント変化の円滑さが関係しており、臨床推論における着目点として有用である可能性があるが、臨床的な股関節機能検査と股関節トルク変化の円滑性について検証してく必要性があると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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