抄録
【はじめに、目的】 姿勢制御は前額面および矢状面での姿勢保持やバランスをテーマとしている先行研究が多い。Nashnerらはバランス保持をする際の運動について足関節底屈と股関節屈曲、足関節背屈と股関節伸展の相互関係が姿勢制御上重要であると述べている。Winterらは足,膝,股関節伸展モーメントの和をサポートモーメントと定義し、歩行の片脚支持期における各関節矢状面モーメントにおいて、股関節と膝関節はトレードオフの関係にあるとした。しかし、上記の先行研究は矢状面のものであり、前額面下肢関節モーメントの相互関係を述べた研究は見当たらない。そこで我々は理学療法の場で必要とされる片脚スクワット動作に注目し健常人における片脚スクワット動作の前額面上姿勢制御において、被験者の下肢関節相互の運動特性について運動学的、運動力学的関係を検討することを目的とした。【方法】 対象は整形外科的および神経学的疾患のない健常男性8名、女性2名の計10名、年齢21.7±1.70歳、身長167.2±8.59cm、体重59.1±6.39kgであった。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社 MXカメラ8台)と床反力計(AMTI社製)を用い、サンプリング周波数100Hzで計測した。マーカー位置はplug in gait full body model に基づく35点とした。計測動作は、非支持脚の開始肢位を股関節軽度屈曲位とし、メトロノームに合わせて、2秒で膝を曲げ、2秒で膝を伸ばすよう指示した。片脚スクワットを連続3回行い2回目を抽出して解析した。解析項目は前額面上データを用い、下肢パラメータとして足,膝,股関節各々の関節角度(それぞれ、内外反、内外反、内外転角度)、モーメント(それぞれ内外反、内外反、内外転モーメント)を、また身体運動パラメータとして、身体重心座標(以下COG),足圧中心座標(以下COP),床反力左右分力を算出した。さらに、股関節と足関節モーメントの和を複合パラメータ[前額面]として算出した。それぞれの運動学的および運動学的パラメータの関連性について相関分析から決定係数を求め、さらに各パラメータ相互を演算処理した複合パラメータ相互の関連性を回帰分析から求めた。全ての統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を用い、危険率は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会にて承認を得た。被験者には測定前に研究目的と実験方法について説明を十分に行った後計測を行った。【結果】 すべての被験者において股関節角度とCOGの前額面座標に有意な相関関係がみられた。(r=0.65~0.96 p<001 )また、足関節モーメントとCOPの前額面座標に有意な相関関係が認められた。(r=0.64~0.94 p<0.01 ) また股関節外転モーメント増加と足関節内反モーメント増加、股関節内転モーメント増加と足関節外反モーメント増加が同時に生じた。また被験者10人のうち7名で複合パラメータ[前額面]と床反力の左右分力の回帰式が優位であり(R2=0.52~0.74 p<0.01 )、足関節モーメントのみより決定係数が大きい傾向であった。他の3名では足関節モーメントのみと床反力左右分力の回帰式が最も決定係数が大きくなった。膝関節モーメントの変化は床反力左右分力と関係がみられなかった。【考察】 股関節角度とCOG、足関節角度とCOPに有意な相関を認めたことは、COGの変化には股関節が、COPの変化には足関節が関わっていたと考えられる。また、股関節外転と足関節内反モーメント、股関節内転と足関節外反モーメントが同時に増加したことから、股関節外転と足関節内反、股関節内転と足関節外反という関節運動の組み合わせで姿勢制御を行っていたと考えられる。これはNashnerらの述べる矢状面の姿勢制御反応と同様の対応を前額面でも行っていたと考えられる。また、被験者の10名中7名で複合パラメータ[前額面]とした股関節、足関節モーメントの和と床反力左右分力に関係があった。足関節モーメントのみの場合と比較し、股関節モーメントを加えたものの方がよりバランスを説明する変数として意義が高く、多くの被験者は足関節と股関節の2関節で床反力を制御していると考えることができる。【理学療法学研究としての意義】 片脚スクワット実施時の身体パラメータおよび下肢関節(足,膝,股)の角度、モーメントの相互関係を把握することは、ある関節の運動が他関節に影響を及ぼすことを運動学的、運動力学的に捉えることと等価と考えられる。これは、理学療法を施行する際、罹患部位のみの治療ではなくその隣接関節からの影響を考慮して治療に臨むことにもつながり、症状出現原因の根源を突き止める理学療法評価の一助となると考える。